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京都産業保健総合支援センター メールマガジン160号 2014/12/1
ホームページ:http://www.kyoto-sanpo.jp
発行:京都産業保健総合支援センター 所長 森 洋一


◇めまいについて◇

産業医学相談員 大山 孜郎

 <はじめに>
 皆様の職場で、従業員が急に「めまい」を訴えた場合、周囲の者がその対応に困ることがあると思います。そんな時にどうすれば良いのか簡単に述べたいと思います。

<めまいの種類>
 めまいの訴えは、その性質上大きく3つに分類されます。身体や周囲がグルグル回るといった訴え(回転性めまい)、身体がフワフワ、グラグラするといった訴え(浮動性・動揺性めまい)、立ちくらみ、眼前暗黒感といった訴え(失神性めまい)3つです。

<めまいの起こるメカニズム>
 めまいは身体の平衡機能の障害で出現します。身体の平衡を保つ反射機能は末梢感覚器である内耳に存在する前庭器由来の前庭感覚と視覚、深部感覚からの情報が中枢神経系の脳幹および小脳で統合されて営まれます。したがって、そのいずれの部位の障害においてもめまいが出現します。

<めまいを起こす主な疾患>
 めまいには種々の原因が存在します。原因となる障害の部位から末梢性のめまいと中枢性のめまいに分類されます。

1.末梢性めまい(平衡障害)
1)良性発作性頭位めまい症
 もっとも頻度の高い疾患で、突発的な体動きによって(とくに頭位の変換など)回転性めまいが生じ、数秒~数十秒持続した後、消失するものです。頭位変換を繰り返すたびに、めまいが出現し、時に嘔気・嘔吐が誘発されます。

2)メニエール病
 耳鳴り、難聴を伴う回転性のめまいが反復して見られる比較的頻度の高い疾患で、突発的に発症します。めまいは頭位変換に関係なく、数十分~数時間持続し、嘔気・嘔吐、冷感、顔面蒼白、動悸などの自律神経症状を伴うことも多いです。突発性難聴でめまいを伴うこともありますが、突発性難聴では反復することはありません。

3)前庭神経炎
 1~2週間前に上気道炎などの感冒様症状が先行して、突発的な激しい回転性めまいが発症する疾患です。嘔気・嘔吐などの自律神経症状を伴いますが、耳鳴り、難聴などの蝸牛症状は伴いません。発症から数日間はめまいのために規律や歩行が困難なことが多いです。

2.中枢性めまい(脳卒中)
 めまいをきたす中枢前庭系の障害は脳幹および小脳病変が主体となります。突発的な浮動性めまい(時に回転性)で頭位の影響が少なく、時に後頸部痛が見られることがあります。通常、脳神経麻痺や構音障害、運動麻痺、運動失調、感覚障害などを伴うことが多く、とくに小脳病変では運動失調の症状が強いため、めまいが見逃されることもあるので注意を要します。

3.失神性めまい
 ふらつき、眼前暗黒感などの症状をめまいと表現することがあります。起立した時だけに生じるめまいは起立性低血圧を疑い、黒色便を伴う場合は消化管出血による貧血、糖尿病の既往があるときは高血糖または低血糖の可能性が示唆されます。また、姿勢に関係なく、失神性めまいが起こる場合は、高度徐脈や弁膜症などの循環器系疾患や、血圧異常(高血圧、降圧剤の副作用)によって起こることがあります。胸痛、背部痛を伴う場合は、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離などの重症度の極めて高い疾患があるので注意を要します。

<原因の判断>
 従業員がめまいを訴えた場合、自覚症状の問診を行うことによって、めまいの原因が末梢性か中枢性、または失神性の可能性がないかを判断することが重要です。とくに失神性のめまいでは問診により検討のつく場合が多いです。問診から推測される疾患を簡単に述べます。

(1)繰り返すめまい、耳鳴りおよび難聴の既往がある場合はメニエール病が強く疑われます。

(2)頭位変換により増強するめまいでは良性発作性頭位めまい症が考えられます。

(3)高血圧症、高脂血症、糖尿病、脳血管障害や心疾患などの既往など動脈硬化の危険因子を有する場合には、まず脳血管障害の可能性を考慮すべきです。

(4)頭部外傷に伴う側頭骨骨折や打撲による内耳振盪症、ダイビングや飛行機搭乗、力んだ後などの外リンパ瘻ではめまいや難聴が単独にあるいは同時に起こります。

(5)感冒症状後の突然のめまいではウイルス感染症が示唆されている前庭神経炎の可能性があります。

(6)消化性潰瘍や肝疾患の既往、消炎鎮痛剤の服用歴および黒色便の有無により消化管出血の可能性を考慮する必要があります。

<重症度・緊急度の判断>
 重症度・緊急度の高い急性発症のめまいは脳血管障害によるものです。頭痛や意識障害、運動麻痺などの中枢神経症状が見られる場合は、脳血管障害を強く疑い、迅速な対応が必要となります。しかし、このような例は極めて稀です。一般的に、本人が自覚的に急にめまいを訴える場合、本人の不安は強いですが、中枢神経症状が伴わない場合の多くは末梢性であり、緊急性はありません。また、貧血や徐脈性不整脈によるめまいの場合には、バイタルサインを頻回に測定して、突然の容態変化、ショックにそなえる必要があります。

<おわりに>
 めまいは、とくに初めて起こった場合には、本人はパニックに陥ることが多いです。
頻度からいえば緊急性を有しない場合が多いので、周囲の者はとにかく落ち着いてめまいをおこした人の状態を観察し判断することが肝要です。


カウンセリング担当相談員 安元 寛子

 職場のメンタルヘルスの新しい考え方として、「健康いきいき職場づくり」が注目されています。「健康いきいき職場づくり」は、①ポジティブなメンタルヘルスの実現を目標とし、②職場や企業の持つ社会的・心理的な資源に注目し、③健康管理だけでなく企業の経営方針や職場のマネジメントなどノンヘルスセクターへのアプローチにより労働者の心の健康を増進しようとする点が特徴といわれています。(平成23年度厚生労働科学研究労働安全衛生総合研究事業「労働者のメンタルヘルス不調の第1次予防の浸透手法に関する調査研究」)
 また、ユダヤ系アメリカ人の社会学者 アーロン・アントノフスキーによれば「SOC(Sense of Coherence)=首尾一貫感覚」という概念が高いと、ストレス対処が上手になると言っています。SOCは「わかるという感覚」「やるぞという感覚」「できると言う感覚」です。
 これは「人生で起こる様々な出来事を一貫して捉えることができ、つじつまを合わせて、きちんと行動ができる能力」と言われています.そして、SOCは環境ではぐくまれるとも言われています。それは環境の中で「夢や目標・理念がしっかりしていて、明確な規範がある。」「自分はこの会社の一員であると、誇りが持てる」「与えられた裁量と要求される仕事のバランスがとれている」「ささえあえる上司や、同僚がいる」「この会社は自分を大切に扱ってくれていると思えるような風土がある」などです。
 このような感覚は自分一人で持てるのではなく、環境から受け取ることができて、初めて自分の中に感じることができるものです。これまでの職場のメンタルヘルスは「個々人のメンタル不調への対応」「パワハラや上司との関係改善に取り組みストレス軽減に努める」など(-)から(0)への取り組みに重きが置かれていました。このようなメンタルヘルス対応は、もちろんのことですが、「健康いきいき職場づくり」のような(0)から(+)への、ストレスをためない環境を目指す第1次予防としてのよりポジティブな取り組みも、おおいに取り組みたいものです。
 これら「組織の健康と個人の健康」の取り組みを進めていくにあたっては、今まで以上に組織との連携が必要です。そのためには組織側の理解を得ることが大切になってきます。そこで組織のトップをはじめ、人事労務管理スタッフ、衛生管理者の方への理解を得る機会として、メンタルヘルスケアの教育研修や安全衛生委員会の機会を通じて、取り組みへの働きかけも必要だと思います。


◇ストレスチェックの義務付けと職場環境改◇

メンタルヘルス対策支援促進員 篠原 耕一

  平成26年6月25日公布の改正労働安全衛生法により、従業員数50名以上の事業場には来年12月1日から、ストレスチェックの実施が義務付けられることとなりました。
 詳細については、現状、厚生労働省検討会にて、産業保健面(実施項目、実施方法、面接指導等)と人事労務面(労働者の同意取得、不利益取扱い、情報管理等)が話し合われており、予定では本年度中に具体的な省令、指針等が策定されることになっています。
 ストレスチェックの目的は、主に一次予防(本人のストレスへの気づきと対処の支援及び職場環境等の改善)であり、副次的に二次予防(メンタルヘルス不調への気づきと対応)とされていますが、厚生労働省が平成24年に実施した労働者健康状況調査においても、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの内容として、職場の人間関係、仕事の量、仕事の質が上位3つを占めており、職場環境の改善なくしてメンタルヘルス不調の防止は果たすことはできないと言えます。こうしたメンタルヘルス不調の原因となる職場の状況をストレスチェックにより明確に把握でき、「何から手を付けなければならないか」意識を持って改善に取り組むことができるようになれば、職場のメンタルヘルス対策も大いに活性化され、より効果あるものになると考えられます。
 そのためには、働くみなさんが安心してストレスチェックを受けることができる体制や環境、実施の後に職場環境改善につながる対策を講じるためのノウハウも必要となりますので、時間と労力は当然必要となります。
 しかし、職場のメンタルヘルス対策は、事業の継続と発展には欠かすことができないものであり、ストレスチェック制度の開始により、働く人の心身の健康確保が経営の重要事項としてさらに認識され、企業と働く人の活力につながっていくことを願います。


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