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京都産業保健総合支援センター メールマガジン163号 2015/3/2
ホームページ:http://www.kyoto-sanpo.jp
発行:京都産業保健総合支援センター 所長 森 洋一


◇京都産業保健総合支援センター ホームページ情報◇

1) 平成26年度「過重労働解消キャンペーン」の重要監督の実施結果を公表
                          <2015.2.23 UP>

2) 日本労働安全衛生コンサルタント会「 化学物質リスクアセスメント研修
  会」のご案内                   <2015.2.23 UP>
      


◇ 職場巡視も基本が大事◇
産業医学相談員 山田達治

 私は現在、大企業の本社ビルで産業医を努めています。修行時代には家電、食品加工業、流通業などの工場や事業所で経験を積ませてもらい、業種によって様々な安全衛生上の課題があることを知り、興味が尽きませんでした。現場の人々の安全意識も高いので、共に改善を目指す取り組みは楽しかったものです。その点、オフィスビルの職場巡視は何とも退屈に思えました。従業員たちも、特に職場に危険源が存在するという意識を持っておらず、些細な物事ばかり指摘しおって、と思われているだろうなあと憂うつな気分になったこともしばしばです。しかし、最近では考え方が変わってきました。以下、私がオフィスの巡視の意義を見直す契機となった出来事を2点書かせて頂きます。

1.素人でも分かる基本的事項を見逃さずに

 従業員代表の安全衛生委員から、「安全衛生マネジメントシステムを導入していながら、どうして労災が無くならないのか」という疑問が出たことがあります。毎年手間のかかる作業をさせておきながら効果は出てないのか、と言いたくなる気持ちは分かりますが、労災件数だけを見てマネジメントシステムに効果がないと言うのは早計です。私が勤めている会社では、マネジメントシステムの導入以来、死亡災害その他の重大災害は大幅に減少しています。有害作業や危険個所を計画的に潰していくには、マネジメントシステムは確かな効果を発揮していると思います。
 一方、全社速報を見ていると、現在散発している労災は大部分が「滑った、躓いた、踏み外した」などが原因となる転倒事故が大半を占めています。今や多くの国内企業では法令遵守やマネジメントシステム導入により安全衛生管理が行き届いて昔のような危険有害要因が減る一方、こうした小さな災害の要因を無くすことは容易ではないようです。こうした種類の災害を防ぐには、製造業で培われてきたKYTや職場巡視などの、いわば伝統的な安全衛生管理こそが力を発揮するのではないかと思います。
 実際に職場を歩いてみると、危険源というほどでもないルールの逸脱が目立ちます。
例えば、

<防災上の問題>
・電気配線のルール逸脱(タコ足配線やトラッキング防止の不備)
・防災設備のルール逸脱(消火器が物で隠れている、排煙設備を妨げる場所に 物が置かれている)
・棚の転倒、落下防止措置の不備

<人の転倒などの危険を招く事象>
・床を這う弛んだケーブル
・物が置かれて通路が狭められている、など。

 本来、これは産業医や衛生管理者でなくても判るはずの逸脱です。職場の人々は特に危険とも不自由とも意識せずに業務を行っているので、こうした事象を指摘すると、面倒な表情を露わにされることもあります。するとこちらも気持ちが怯んでしまい、これくらいはいいか、と通り過ぎたくなる気持ちになることがあります。それでも、また労災速報で躓き事故を目にすると、やはり疎まれてでも言わねばならぬ、と決意を新たにするのです。

2.工場の安全衛生管理も基本的事項から

 私も稀には工場に出張した際などに職場巡視を頼まれる機会があります。当日いきなり連れて行かれた現場は、どんな有害要因があるのか、それ以前に何を作っているのかさえも知らないことが多く最初は面食らいました。もう何年も製造現場の巡視をしていなかったからです。しかし、いざ現場に入ってみると、目につくのはオフィスと同じような、素人でも気づくはずの事象です。騒音、有機溶剤、粉じんなどの有害要因がばっちり第一管理区分で保たれている一方で、通路に台車が放置されているなどの判りやすい逸脱があったりします。

 こうして多様な職場環境の巡視をしてみると、オフィスに存在する危険有害要因は、あらゆる職場に共通しているのだと判ります。そして、労災の大部分の原因はそこにあるのです。些細に思えるルール逸脱を是正していくことが労災の芽を摘むのだという信念をもって、平素から職場の安全意識を向上させていきたいものです。


◇関心高まる大人の発達障害◇
産業保健相談員 伊東 眞行

 先月、私の友人(カウンセラー)が「大人の発達障がいをどうとらえるか~理解の視点を得れば、支援が変わる!~」というテーマの講演会を大阪で開催しました。
 当初160名定員で募集をかけたところ、500名を超す応募があったため、急遽3部屋増やし、メイン会場以外はテレビ会議形式で受講することになりました。
 参加者は北海道から九州にまで及び、職業もさまざまな専門職が含まれる多彩な顔ぶれでした。これほどまでに反響があるのは、発達障害が今いかに注目度が高いかを物語っています。学校においても、職場においても、発達障害をどうとらえ、どう対応していったらよいかに悩んでいる人が多いということを示唆しているのかもしれません。一昨年には「自閉症スペクトラム~10人に1人が抱える“生きづらさ”の正体~」本田秀夫著(SB新書)という本が出版されており、その頻度の高さが話題になっています。
 この講演会では、発達障害に関する著名な医師(大阪大学大学院教授・永井利三郎氏、及び、京都大学大学院教授・十一元三氏)の話がありましたが、その中でも発達障害の高い出現率が論じられ、講師の先生の感覚でも、10人に1人というのは実感に合っているとのことでした。
 これだけの頻度になると、もはや「障害」というカテゴリーでは論じにくいこと。しかし、特別な支援を必要とする人もいるので、「障害」という名前を消すわけにもいかない、などの話がありました。また、このように出現率が高いにもかかわらず、日本での発達障害に詳しい医師の数は数十人にとどまっており、欧米と比較しても桁外れに少ないことが論じられました。
 従来、アメリカの精神障害診断基準であるDSM―Ⅳでは、発達障害はLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、広汎性発達障害(アスペルガー症候群、高機能自閉症)などで分類されていました。日本では「障害」という名称は偏見も持たれやすいので、一昨年に改訂されたDSM-5では、「障害」をはずした「注意欠如多動症」「自閉スペクトラム症(ASD)」などの訳が併記されるようになりました。
 当事者や周囲の人たちが発達障害を受け入れやすくするためには、偉大な業績を残し世の中に貢献した人の名前を挙げていくとのいうのも一つの方法かと思います。たとえば、スピルバーグ、エジソン、アインシュタイン、モーツアルト、坂本龍馬、トムクルーズ、など多数の例が挙げられています。  
 専門職者にも出現率が高く、発達障害の本を書いている医師や心理士が「自分は発達障害」とカミングアウトしている例も多々見られます。
 これらの事実を当事者が知れば、ほっとするかもしれないし、受け入れやすいかもしれません。しかし、偉人は身近な人ではないので、他人事にしか思えないかもしれません。それよりもこの高い出現頻度からみて、日常頻繁に存在する、それほど稀な存在ではないことを理解する方が受け入れやすいかもしれません。
 正確さや素早さや効率を求める現代の社会システムは、人間により高度な適応力を要求してきており、それがメンタル不全に陥る人を増加させています。同じ理由で、以前であれば個性の範囲にあった人たちが、発達障害と診断される現象が生じてきているように思います。
 メンタル不全や発達障害の人たちが、できるだけ不便やストレスを感じないで働ける対策を講じることが、多くの労働者の働きやすさにも通じるとのではないかと思います。


◇難病対策の改正について◇
メンタルヘルス対策支援促進員 小澤裕美子 
 
 メンタルヘルスの話とは外れてしまいますが、昨年5月30日に「難病の患者に対する医療等に関する法律(以下「難病法」といいます。)」が公布され、今年1月1日から新たな難病の医療費助成制度が始まりました。
 難病に関する法律ができたのは、世界で初めてだそうです。法律ができたことで、医療だけでなく、福祉、介護、就労、教育等の綜合対策が充実し、拡大されることが期待されています。
 そもそも難病とは、今回成立した難病法によると、「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」という定義です。長期間の治療が必要となります。
 新しい医療助成制度では、大きな変更が多々あります。難病にかかる医療の自己負担割合の変更(原則3割から2割へ)、月額自己負担の上限額の変更、算定方法の変更、指定医療機関や指定医の導入等があります。
 また、大きな変更としては、助成対象となる疾病が従来の56疾病から、今年1月から110疾患に、今年の夏頃から約300疾病に拡大される予定です。
 対象疾患が大幅に増えたのは大きな前進だと思うのですが、一方で1ヵ月の自己負担の上限額が上がったことや、従来は全額自己負担額無しだった院外薬局の薬代の負担が発生する等で医療費の負担が増えたのではないかと不安になられている患者の方も少なくないのではと思います。
 難病法が成立し、昨年機会があり、改正された難病法の説明も含めた難病対策の会合に参加したことがありました。
 就労されている方から「今は体調が悪く会社を休職中だが、このまま会社に在籍していてもよいのだろうか。退職したほうがよいのだろうか。」という切実な質問を発表者にされていました。難病というと、「寝たきりではないか」とか「仕事はできないのではないか」というイメージを持たれる方もおられるかもしれません。私も以前はそのようなイメージを持っておりました。でも症状は安定したり、悪くなったり様々です。
 重篤な方もおられますし、服薬治療等で通院しながら仕事をされる方もおられます。外形的には一見して病気であることがわかりづらい場合も多いです。
 働くうえで、病気のことを会社にどのように説明すればよいか、説明して理解はしてもらえるのか等、悩みや不安を日々持っておられ、「治療と社会生活の両立」は大きな課題であり、目標です。
 就労支援の一環として、平成25年度から全国15箇所のハローワークに「難病患者就職サポーター」が配置されています。
 難病相談・支援センターと連携しながら、就職を希望する難病患者の方々に対して、症状の特性を踏まえた就労支援が行われているようです。京都では今年度はまだ配置されていないようですが、次年度以降全国のハローワークで配置され、少しずつ支援が拡大していくことを期待しています。



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 ※当センターが実施する「産業医研修会」について、付与できる単位は
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