産業保健コラム
安野 博樹
所属:耳鼻咽喉科安野医院 理事長
専門分野:耳鼻咽喉科・騒音性難聴
COVID-19感染症と嗅覚障害について
2023年12月1日
巷では、一体あのコロナ禍は何だったのかというような活況を呈していますが、医療機関においては令和5年11月現在、インフル・コロナそれぞれの感染がダラダラと継続している状況です。
さてコロナ感染で脚光を浴びたのが「嗅覚障害」ではないでしょうか。私は大学院時代に嗅覚障害(主にその再生)の研究を4年間行っておりました。
コロナ感染はコロナウイルスが人間の細胞にあるACE2受容体に結びつくことによって成立します。そのACE2受容体は鼻粘膜に特に豊富に存在しており、それにより鼻粘膜細胞(嗅神経細胞を含む)の炎症だけではなく、死滅をも引き起こします。よって他の細菌・ウイルスよりも嗅覚障害を高率に発症させます。文献にもよりますが大体コロナに感染すると約80%に嗅覚障害が発症します。ただし、その後10~14日後には有意に回復しているというデーターがほとんどでした(参考文献の省略をお許しください)。
また味覚障害も有名ですが、嗅覚障害による風味障害が主で、純粋な味覚障害は希です。要は鼻をつまんで(嗅覚障害)食事をすると、ほぼ味気ない食事となる(味覚障害ではなく風味が落ちる)のと同じ原理です。
またコロナに感染しても嗅覚障害が軽度の場合には自覚がない場合もあります。それは視覚の情報が邪魔をしている場合があるからです。例えばカレーを見て食べると、脳が「これはカレーだ」と認識して、実際はカレーの匂いが匂っていないにもかかわらず、カレーの匂いがしているつもりになってしまいます。もしコロナに感染した場合は、必ず料理の匂いを近づけて嗅いでみてください。怪しい場合は目を閉じて(視覚の情報を遮断する)誰かにカレーやコーヒーなどの特徴ある匂いのものを近づけてもらい正解したかを確認してください。
もしコロナに感染し嗅覚障害を発症した場合、まずは近くや、かかりつけの耳鼻咽喉科に電話などで連絡の上、御受診ください。
安野 博樹