産業保健コラム
西野 智子
所属:社労士事務所TOMORROW
専門分野:社会保険労務士・産業カウンセラー
アスリートとメンタルヘルス
2024年8月1日
パリオリンピックが7月26日から開催されます。この原稿は開催前に書いていますので、どんな名シーンが観られるのか、また、馬術の会場がヴェルサイユ宮殿であったり、エッフェル塔のふもとでも競技が開催されたりするようですので、パリの風景を垣間見ることも楽しみにしています。
盛大な舞台であるオリンピックですが、アスリートのメンタルヘルスの問題が、ここ数年、語られるようになりました。前回の東京オリンピックで金メダルの最有力候補とされていたアメリカ女子体操のシモーネ・バイルズ選手が、過度のプレッシャーによるメンタル不調を訴えて途中棄権したことが話題になりました。また、2021年の全仏オープンでは、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手が、自らのメンタルヘルスを守ることを理由に試合後の会見には応じないという決断をして、主催者側から罰金を課され非難を浴びたことがありました。
アスリートは強靭な心身を持つべきで、ストレスは受入れてどのような状況においてもプレーすべきであるという風潮がある中、自らの心の健康を優先させた行動に対して賛同の声があがりました。アスリートである前に、一人の人間としてメンタルヘルスを守ることの重要性を社会に投げかけたことに、大きな意義があったのではないかと思います。
アスリートには計り知れない重圧がかかることでしょう。しかし、アスリートに限らず現代社会で働く人々も、大きな責任や重圧に耐えながら働いています。日本は、人手不足の中で経済成長を押し進めるために生産性向上を重視する社会となりました。会社は人手や時間をかけずに目標を達成するために効率化を求める時代となりました。その結果、働く人々は仕事に忙殺され、職場ではハラスメントが起こるという状況がみられます。このようなプレッシャー社会だからこそ、職業人である前に一人の人間として自らのメンタルヘルスを守ることが大切であるという視点が浸透したらよいと思います。
シモーネ・バイルズ選手はパリオリンピックにも出場しますので、彼女の活躍も応援したいです。
西野 智子