産業保健コラム

岡嶋 静


所属:岡嶋労務・安全衛生管理事務所

専門分野:労働安全衛生関係法令・労働基準関係法令

個人事業者やフリーランスを対象とした安全衛生の取り組みについて

2025年3月3日

働き方の多様化の進展やコロナ禍以降のフリーランスの増加に伴い、労働安全衛生の分野においても、個人事業者やフリーランスといった人々を対象とする法整備が進められています。
従来、個人事業者・フリーランスといえば、建設業の一人親方、様々な業種における一人社長といった方々やプログラマー、カメラマン、デザイナーなど専門的な知識を有する人が特定の企業などに属さず個人のもつスキルを活かして仕事を請け負う働き方が中心でした。ところが現在では、ネット通販やフードデリバリーの配達員を街中で頻繁に見ることができますし、兼業・副業を容認する企業の増加に伴い会社員が副業としてフリーランスで就労したり、中高年齢の方が定年(嘱託定年)以降に業務委託で就労したりするケースなども増加しています。
これに伴い、個人事業者・フリーランスについても、業務上の災害や疾病が相当数発生している状況があることから、厚生労働省は、労働者以外の人々も含めた業務上の災害防止を図ることが重要と考えているようです。最近の主な施策を時系列に並べると以下のようになります。

 

(1)令和3年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決を受け、厚生労働省は、安衛則、石綿則、有機則、特化則など計11の省令について改正を行い、令和5年4月1日から施行しています(※1)。この省令改正では、安衛法第22条(「事業者は原材料等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」旨が規定されている。)の規定は、労働者と同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨とした最高裁判決を踏まえ、危険有害な作業を行う事業者は、①労働者以外の者に危険有害な作業を請け負わせる場合は、請負人(一人親方、下請業者)に対しても、労働者と同等の保護措置を実施すること、②同じ作業場所にいる労働者以外の者(他の作業を行っている一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員など、契約関係は問わない。)に対しても、労働者と同等の保護措置を実施する等の措置を講じなければならないとされました。

 

(2)令和6年5月28日には、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が策定されました。このガイドラインは、「個人事業者等であっても労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきである。」という基本的な考え方のもと、個人事業者等(事業を行う者のうち労働者を使用しないもの及び中小企業の事業主又は役員)に対して自身の健康を保持するために必要な措置を実施することを求めた上で、注文者等(注文者又は注文者ではないものの、個人事業者等が受注した仕事に関し、個人事業者が契約内容を履行する上で指示、調整を要するものについて必要な干渉を行う者)に対して長時間就業による健康障害の防止やメンタルヘルス不調の予防、健康診断の受診に要する費用の配慮といった事項を実施することを求めています。特に、労働者であれば特殊健診が必要となる業務を反復・継続して個人事業者等に注文する場合には、請負契約に当該健診費用を安全衛生経費として盛り込むことや個人事業者等が専ら一者から注文を受けた仕事のみを行っているような場合であって、①契約期間が1年を超える場合、又は②1年を超えない契約期間の請負契約を繰り返し締結している場合に請負契約に一般健診費用を安全衛生経費として盛り込むことが望ましい(40歳以上の個人事業者等については、特定健診の実施が義務づけられているため、請負契約に一般健診費用を盛り込む必要はない。)、ことなどが盛り込まれています。

 

(3)さらに、令和6年11月1日からはフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されています(※3)。この法律は、フリーランスに業務委託する事業者(発注事業者)とフリーランス(業務委託の相手方の事業者で、従業員を使用しないもの)を適用対象としたものです。内容については大きく分けて、①フリーランスと発注事業者間の取引の適正化と、②フリーランスの就業環境の整備に関するもの、の二つに分かれています。このうち②の「フリーランスの就業環境の整備」の内容としては、a.募集情報を広告する際の内容規制、b.育児・介護等と業務の両立に対する配慮、c.ハラスメント対策に係る体制整備、d.中途解除等の事前予告・理由開示等の4点が規定されています。

 

(4)また令和7年1月27日には、労働政策審議会から厚生労働大臣に、フリーランスを含む個人事業者を労働安全衛生法の保護対象とすることなどを内容とする労働安全衛生法の改正要綱が答申されました(※4)。この改正要綱においては、①個人事業者等に対し、厚生労働大臣が定める規格又は安全装置を具備しない機械等の使用を禁止する、②個人事業者等に対し、政令で定める機械等について定期に自主検査を実施し、結果の記録を義務付ける、③労災防止に向け個人事業者等に対して安全衛生のための特別教育等を受けることを義務付ける(上記①~③の施行日:令和9年4月1日)、④個人事業者等が業務中に死傷(休業4日以上)した場合には発注者等に労働基準監督署長への報告を求める制度を創設する(施行日:令和9年1月1日)、などの内容が含まれています。本稿のテーマとは離れますが、50人未満の労働者を使用する小規模事業場に対するストレスチェックの実施を当分の間努力義務とする特例を廃止すること等も本改正要綱に含まれています(施行日:公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日)。
厚生労働省では、この改正要綱に基づき、労働安全衛生法の改正法案を今通常国会に提出することになっています。

 

働き方改革などの影響もあり、企業から独立してフリーランス等として働く人が増加していますが、上記施策にみるとおり、個人事業者やフリーランスへの法対応も毎年のように拡充されています。契約当事者である企業側としては、雇用している労働者ではないというだけで放置することはできなくなっています。業務委託等で就業する個人事業者・フリーランスを活用している場合には、厚生労働省から公表される情報に留意していただき、現在の対応内容を再検証しておくことが重要となっています。
なお、形式的には個人事業者等として請負契約や準委任契約などの契約で仕事をする場合であっても、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態が「労働者」に該当すると判断された場合には、「労働者」として労働安全衛生法等の労働関係法令が適用されることにもご留意ください。

 

(※1) 一人親方等の安全衛生対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00008.html

(※2) 個人事業者等の健康管理に関するガイドラインの策定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40367.html

(※3) フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

(※4)「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」の諮問及び答申について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981_00021.html
*全て厚生労働省HP

岡嶋 静