産業保健コラム
松井 大輔
所属:京都府歯科医師会 公衆衛生委員会
専門分野:産業歯科
口腔機能の低下は筋力や歩行速度に関連します
2023年11月1日
平成元年より厚生労働省と日本歯科医師会が推進している8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保つ)は、開始当初は約7%であった8020達成者が平成28年には50%を超えました。8020達成者の増加につれて、むし歯や歯周病の治療による形態の回復から、摂食嚥下や咀嚼機能等の機能の回復への移行の必要性が謳われるようになってきました。
平成30年より口腔機能の低下を認める高齢者の口腔機能に関する検査や継続的な管理を評価することが拡充され、「口腔機能低下症」*1という病名が保険導入されました。オーラルフレイルが「口腔機能の軽微な低下が顕在化してきた状態」であるのに対し、口腔機能低下症は「疾患」であることを区別して理解する必要があります。口腔機能低下症は7つの検査項目のうち3つ以上の検査で不良と判定されると口腔機能低下症と診断されます。検査は歯科医院で受けることができますが、検査を実施されていない医院もありますので、受診される前にホームページ等での確認をお願いします。
保険導入当初は65歳以上が検査の対象でしたが、現在は50歳以上が対象となっております。日本の高齢者を対象とした研究では、口腔機能低下症がサルコペニアやフレイルと関連していると報告されています。そのため労働者の転倒事故防止には口腔機能低下症の予防が必要になるのではと思われます。
口腔機能の維持管理については個人の問題として捉えるだけはなく、産業保健の一環として、定期的な歯科健診の提供や、正しい歯磨きの指導など、口腔ケアの啓発を行うことも重要です。口腔に関するお悩みがあればセンターにご連絡いただけますと幸いです。
*1「口腔機能低下症」
口腔機能低下症は、加齢だけでなく,疾患や障害など様々な要因に
よって,口腔の機能が複合的に低下している疾患。
詳しくは、日本老年歯科医学会HP
https://www.gerodontology.jp/committee/file/oralfunctiondeterioration_document.pdf
松井 大輔