産業保健コラム
坂田 晃一
所属:トヨタバッテリー(株) 産業医
専門分野:産業医学
ストレスチェックについての私見
2016年4月1日
4月から相談員になりました坂田と申します。20年前から現在まで製造業で専 属産業医をしており、今年1月から勤務先が関西に変わっています。今後ともよろ しくお願いいたします。
初めての投稿になりますので、どのようなテーマにするか悩みましたが、多くの 方が関わっており、おそらく一旦は落ち着き感をみせてきたストレスチェック制度 について、これまでの経験をもとに書いてみたいと思います。この制度が始まるま での審議段階での紆余曲折や決定後の導入までの騒動は大変なものでした。各事業 所では、産業保健スタッフと会社側関連部門との頻回の打ち合わせが行われ、目新 しい施策として一致団結できたところもあれば、お互いの腹の内が垣間見え、今後 の関係継続に不安を感じているなど様々であると思われます。私自身はちょっと早 急にパンドラの箱を開けてしまったような感はあります。
この制度の本来の目的は、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職 場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタル ヘルス不調となることを未然に防止すること(いわゆる一次予防)です。専門機関 から提案されているストレスチェックの個人結果表をみますと、内容はかなりわか りやすく書かれており、自身のストレスへの気づきには繋がると思われ、受診者が 正直に回答すれば、期待に見合うものになるのではと思われます。もう1つの職場 環境に関する集計結果については、かなり心配な点があります。私の経験では、5 7問では職場環境改善に結びつけるにはもう少し何かヒントがほしいという捉えら れ方が多かった印象でした。今回は各専門機関の努力もあり、大規模の事業所など では多くが100問以上の問診票が使用されることが多いように聞かれます。職場 診断を初めて実施するところでは、情報過多感が強く感じられることが予想され、 消化不良を起こす可能性があります。また、結果を受け取る上司は「上司としての 評価」を受けとったと考え、どうしても良いところでなく、「何が悪いのか」に目 がいってしまいます。質問が多ければ多いほど何らかの悪い点が洗い出されます。 ただ、それがすべて改善されるべきことであるのか、改善できるものかは別だと思 われます。どこの事業所にも職場風土があり、良いところは必ずあります。今回の ストレスチェックが業者選定や高ストレス者対応への準備で疲れ果ててしまった感 が強く、これから初めて目にする職場診断結果への対応は全く間に合っていない気 がします。結果が出てから、訳がわからないまま急いで上司に職場改善計画案を作 成させるような事業所が沢山出てしまわないか、このことが原因で職場風土が良く ない方向に変わったりはしないかと私は危惧しています。
坂田 晃一