産業保健コラム

長井 苑子


所属:(公財)京都健康管理研究会 理事

専門分野:呼吸器内科・膠原病・サルコイドーシス・産業保健

産業医学相談員より

2015年4月1日

 産業医の資格を有してはいるが、多くの事業所や工場を視察したわけでもな
く、産業衛生委員会で種々の課題を討議してきたわけでもない。たまに産業推
進センターで相談にのっている。職場の多くの課題はメンタルなものが増えて
きていることは、どこにおいても強調されている。間接的にうかがっていても、病気もちの勤務者の休業と処遇、職場での小さいけれど、気になる不満への対応などなど、時間もいるし、経験もいる相談ごとが多そうである。
 最近の新聞では、経済学者が、昔の格差社会とは、ずいぶんと異なった格差
社会の問題を認識しての対応が必要であると説いていた。昔は、高等遊民とい
う親がかりで好きな勉学や遊興に打ち興じての人生をおくっていた人たちもい
たのである。そのなかでの貧困層との対比であった。しかし、現在は、一見、
便利で安価なものでも格好よく見えるという時代の中の格差であり、うっかり
すると格差そのものが見えにくい。若者の就職したくても見つからないままの
希望まで感じられない中の貧困、高齢者の人生を一生懸命生きてきたのに、老
齢期に僅少な年金だけでは、人間らしい生活もおくれないままに弱っていくと
いう悲惨な貧困と幅が大きい。考えてみれば、憲法のうたう基本的人権が、老
いも若きも奪われているような中での格差社会である。これで、インターネッ
トを通じて、多くの情報が安易に得られることとなれば、バランスを失して過
激思想に影響されたり、必要以上に暴力的なものに刺激されてしまう傾向を、
説得力をもって軌道修正させにくい状況がある。どうすればいいかと、大きな
社会的問題にはふみこまれないし、その力もないが、職場での問題の解決もう
まくしないと、悲惨な格差をうんでしまう、失職して、落ちていく人間を救う
こともできない。私の上司は、日本で賃金が増加していった上向きの時期に、
すでに、そのまま行くと、国際競争力を失うこととなる(同じ労働をアジアな
どでもっと低賃金でできるので雇用がやがて奪われていく)ことに対応しなか
った日本についてコメントしている。高齢者を生活保護に追い込まずに、年金
を増加する対応はできないのか?そうできれば、若い世代の雇用の場も増える
から、深刻な社会問題もすこしは改善されはしないか?誰が、これらの問題に
糸口をつけてくれるのか?
 産業医もこれらの問題を共通に認識し職場問題への対応もできるよう社会学
的想像力を必要とする資格、立場であろう。種々の職場での産業衛生への認識
の改善、産業医自身の社会的視点、臨床医とのうまい連携などが山積みされて
いる。

長井 苑子