産業保健コラム
長井 苑子
所属:(公財)京都健康管理研究会 理事
専門分野:呼吸器内科・膠原病・サルコイドーシス・産業保健
病気も自然に治る(自然寛解)こともある:見極められる医師、悩みすぎない患者
2024年5月1日
私は、大学病院から診療所に来て、一般外来とともに、サルコイドーシスあるいは間質性肺炎、膠原病などの専門外来もおいて外来活動を継続してきました。厚生労働省指定難病を診察してきました。サルコイドーシスの長い臨床経過は約20%ちかい場合には治療は必要なく自然寛解されます。発症・発見から5年以内に、例えば、肺門リンパ節腫脹だけの人は90%以上自然治癒されます。サルコイドーシス全体では10%内外の難治化はありますので、現在でもそういう患者さんには、ステロイド治療や免疫抑制薬を上回る新規薬剤などが期待されて研究されております。
進行するばかりだといわれる間質性肺炎にもいろいろなタイプがあり、治療の反応性にも幅があります。在宅酸素療法が必要になっても、何年もこの療法のおかげで安定されて病気とともに日常生活を送っておられる患者さんも多くおられます。
呼吸器の病気のみならず、自然寛解がありうる病気は多いのです。ウイルス感染症、細菌感染症、膠原病、潰瘍性大腸炎、腎炎など。ガンですらまれには可能性がないとはいえないのです。
自発的回復力、レジリエンス
すべての病気が自然寛解するわけではありませんし、年齢はいやでも加えられていくのです。組織であれ、個人であれ、自発的な回復力のことをレジリエンスと呼び、最近では、心理学的な用語として定着してきています。本来は、物理学的な用語で弾性とか復元力を意味していたらしいです。いわば、脆弱性の反対の用語でしょうか?
簡単に理解すると、自分を失わずに、どのような状況でも、すぐ逃げずに、短絡的に決断せずに、問題の解決への方向を忍耐しながら客観的に判断できるように、自分をコントロールすること、そのためには、心身の日ごろからのケア、鍛錬が必要ということでしょうか? 患者さんも、自分の訴えが、現在の病気のせいなのか、ほかの病気の表れなのか、ストレスなどからくる心身の不調なのかが理解しやすくなるでしょう。いくつになっても備わっているはずの自分のレジリエンスを維持してみようと対応して、埋もれている気力、経験知、知識などを再利用していかねば、今後の少子高齢化の社会を維持していくのは大変であると思います。
レジリエンスを高めるためには、1.健康的な生活習慣を心がける、2.社会的なつながりを維持する、3.前向きな思考を心がけることが大切です。
こういうことへの指導は高齢者医療の神髄であるかもしれないと考えております。もちろん、具体的な医療行為をすべき病気もみのがさずに、しかし、病気がみつかっても、過剰な医療や入院で、さら高齢者のレジリエンスを低下させるような医療はしない
ことが大切です。
長井 苑子