産業保健コラム
森口 次郎
所属:(一財)京都工場保健会 産業医学研究所 所長
専門分野:産業医学・高血圧
データヘルスと産業保健スタッフの関わりについて
2014年7月1日
昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略」に、すべての健康保険組合が2014年度に「データヘルス計画」を策定し、2015年度から計画に基づいた保健事業に取り組むことが盛り込まれました。また、健康保険組合は事業者と協働して、保有する特定健康診査・特定保健指導のデータやレセプトデータを分析して、加入者の健康増進や疾病予防、重症化予防のための保健事業を行うことも推奨されており、これは「コラボヘルス」と名づけられています。データヘルス計画やコラボヘルスにより、健康寿命の延伸、医療費の削減、さらには生産性の向上などに寄与する可能性が期待されていますが、産業保健の現場では、企業と健康保険組合での情報共有における同意の取り方、データ共有による産業保健職のリスクの可能性など留意すべき点があります。
同意の取り方に関しては、健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(平成26年3月31日 厚生労働省、経済産業省)や関連法規に述べられていますので、ご参照ください。ここではその一部をご紹介します。個人情報保護法第 23 条第 2 項では、例外的に、本人の求めに応じて個人データの第三者提供を停止することにして、かつ、第三者への提供を利用目的とすること等についてあらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知りうる状態におかれている場合は、あらかじめの本人の同意を得ないで、当該個人データを第三者に提供できると規定されています(オプトアウト)。ただし、レセプトデータは健診データに比べて機微性が高い情報を含むため、保険者が保健事業を効果的に実施する目的で、レセプトから得られた情報をオプトアウトによる対応で企業等に提供する場合は、個人情報保護法第15 条及び 16 条に基づき、提供する情報の範囲を保健事業に必要な最低限の情報(医療機関への受診の有無など)に限定する、利用目的を明確に限定する等、慎重に取り扱わなければならないことも示されています。また、個々の労働者の病名や受診有無、治療内容は機微な情報ですので健康保険組合と企業が共同利用する際は同意書を取っておくべきだと考えられます。オプトアウトによって対応するならば個人が識別されない連結不可能な情報に加工してから事業者に提供されるべきでしょう。判断がつきにくいケースは法律の専門家の助言を得て慎重に運用いただきたいと思います。
データ共有による産業保健職のリスクとしては、産業保健スタッフが個々のレセプトデータを閲覧し、通常の産業保健業務では知りえない情報(例えば、てんかんで治療中などの情報)を入手した場合、安全配慮義務の範囲が拡大する可能性が考えられます。
産業保健スタッフが健康保険組合の顧問を務めているケースなどもあろうかと思いますので、慎重なデータ利用を心がけてください。また、産業保健スタッフが個別のレセプトデータに基づく様々な労働者向けの取り組みを行うと、労働者との関係性が変わってしまうかもしれませんので、新たな取り組みによって長年培った信頼関係が損なわれないように注意が必要だと思います。
今後、産業保健スタッフは、勤務する企業や関わりのある健康保険組合からデータヘルス・コラボヘルスに関する相談を受けることがありえると思います。早めに情報収集を行い、労働者が安心して参加できる効果的な取り組みにつなげたいものです。
森口 次郎