産業保健コラム

森口 次郎


所属:(一財)京都工場保健会 産業医学研究所 所長

専門分野:産業医学・高血圧

ウェルビーイング経営ってなに?

2022年10月3日

 近年、健康長寿社会の実現に向けて、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、健康の保持・増進につながる取組を戦略的に実践する「健康経営」が注目されています。今年3月には、「健康経営優良法人2022」として、大規模法人部門に2,299法人(上位法人は「ホワイト500」の冠)、中小規模法人部門に12,255法人(上位法人は「ブライト500」の冠)が認定されています。

 今回は、健康経営の進化形とも考えられるウェルビーイング経営について、私の所属機関が主催する研究会で、産業精神保健の第一人者である東京大学川上憲人名誉教授の講演を聴講してきましたので、簡単にご紹介します。ウェルビーイング経営が注目される背景は、「仕事を通じて社会課題の解決に貢献しながら、自身の成長を実感・実現することを重視する人材が増えていること」、「企業の役割が変化し、社会的な課題解決に貢献できるかが投資家の評価基準に加わったこと」、「企業に、国連SDGsの目標8.『すべての人が働きがいと十分な収入のある仕事につく』への貢献が期待されていること」などがあります。

 世界保健機関憲章前文には、「健康とは、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と示されており、ウェルビーイング経営でも「身体的ウェルビーイング」、「精神的ウェルビーイング」、「社会的ウェルビーイング」についての概念が示されています。この中で私たちがイメージしづらいかもしれない社会的ウェルビーイングは、「自身の周辺のコミュニティやより広い社会のコミュニティにおいて、人が他者とうまくつながっていること。人づきあいや、重要な関係性の深さや、社会的支援の利用可能性を含む。」と述べられています。これまでの健康経営においては、社会的ウェルビーイングの視点はあまり取り込まれていなかったかもしれませんが、2021年度より、健康経営のスコープが自社だけでなく「サプライチェーン」や「社会全体」に広げる方針が示され、「取引先の健康経営の取組を支援し、その旨を対外的に公表しているか」、「企業活動や商品・サービスを通じた社会全体への『健康』への寄与があるか」などを問われるようになっています。

 ウェルビーイング経営の方法論などはまだ定まっていませんが、先進的な事例を参考に、企業の文化などを踏まえてそれぞれのウェルビーイング経営について検討する企業が増えていくかもしれません。それに関与する可能性のある産業保健職として、今後も注目していきたいと思います。

森口 次郎