産業保健コラム

森口 次郎


所属:(一財)京都工場保健会 産業医学研究所 所長

専門分野:産業医学・高血圧

ストレスチェックは本当に効果があるのか? ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会より

2024年10月1日

 2024年3月29日から「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が始まり、2015年に開始されたストレスチェック制度などメンタルヘルス対策の今後のあり方が議論されています。筆者は構成員として、この検討会に参加しています。

 この検討会の第1回、第2回では、ストレスチェックに関する多くの知見が紹介されました。まずストレスチェックで用いられている調査票「職業性ストレス簡易調査票」(57項目版や80項目版)が心理的な負担の程度を把握するうえでの妥当性について、ストレスチェック結果と各種心身のアウトカムとの関連性、高ストレス者における1か月の疾病休業発生の高さなどの報告が紹介されました。またストレスチェックの効果として、ストレスチェックの導入が労働者のストレス対処の特徴への気づきや対処実施意欲を増進すること、職場環境改善の取り組みが労働者の心理的ストレス反応の有意な低下や労働生産性の向上をもたらすことも紹介されていました。紹介された知見の中には、私が関わった労働者8名の事業場における労働者参加型の職場環境改善ワークショップおよびフォローアップ訪問の実施が「全員参加による達成への満足感」など労働者の肯定的な意見につながったことを報告する論文も紹介されていました[黒木ら、産衛誌 2020 62 (6) 249 60]。また産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員が関わっている研究報告もありました。労働者数約100 人の製造・卸売業で、集団分析結果の解釈等について、メンタルヘルス対策促進員の助言を受け、経営層と「働き方改革推進チーム」で改善案を検討し、上司・部下・同僚間の相互支援をしやすいチーム作りに取り組んだ結果、上司からの支援や総合健康リスクが改善し、メンタルヘルスに理解のある風土が醸成されたというものでした。これまでの報告には特定の事業場での成果などが含まれますので、一概にストレスチェックは有効と結論付けることはできませんが、多くの知見が蓄積されてきていることに感心しました。

 この検討会はまだ折り返し地点に来たくらいの進捗ですが、7月26日に開催された第5回までに、50人未満の事業場におけるストレスチェック実施の義務化に関して、労働者のプライバシー保護、中小企業に即した実施内容、人的リソース・地域窓口等による支援などについて熱心に意見交換されてきました。また集団分析・職場環境改善を義務化についても、事業場内の実施体制や外部支援のあり方などについて検討が進んでいます。

 第1回から第5回までの議事録や資料は以下のURLで閲覧することができます。今後の進展によっては産業保健専門職の日常業務に大きな影響があるかもしれませんので、ぜひ注目いただければ幸いです。

 

ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会
  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38890.html

森口 次郎