産業保健コラム
森口 次郎
所属:(一財)京都工場保健会 産業医学研究所 所長
専門分野:産業医学・高血圧
ストレスチェック制度における面接指導の進め方
2016年12月1日
今年度、京都産業保健総合支援センターでは「ストレスチェック制度に
おける面接指導の進め方」 についての研修を実施しており、私も2回の研
修で講師を担当させていただきました。今回は研修で説明した面接指導の
留意点について簡単に述べたいと思います。
面接指導では、①「勤務の状況」(業務内容、繁閑の状況、残業時間な
ど)、②「心理的な負担の状況」(ストレスチェックのストレス反応の項
目を活用して、持続性や就業や生活への影響の有無、うつ病のスクリーニ
ング検査の実施など)、③「その他の心身の状況」(心理的な負担以外の
健康状況や生活状況)について確認してから、総合評価を行い労働者への
指導を行います。①「勤務の状況」は普段の職場巡視で作業環境などを確
認しておくとともに、面接指導に先立って人事・労務担当者や上司から面
接対象者の就労状況について情報を得ておくと効率的な面接につながりま
す。②「心理的な負担の状況」については、ストレスチェックの抑うつ症
状関連項目(「ゆううつだ」、「何をするのも面倒だ」、「物事に集中で
きない」、「気分が晴れない」、「仕事が手につかない」、「悲しいと感
じる」など)に注目し、 “いつもあった” 、 “しばしばあった” などにチ
ェックされている項目があれば、それが慢性的か、本人の悩みが強いか、
仕事や生活の支障が強いか、などを確認します。そしてうつ状態を疑う場
合は、うつ病の簡便な構造化面接法(厚生労働省『長時間労働者、高スト
レス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル』
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/151124-01.pdf
25ページ)を使用して専門医療機関受診の要否を判断するとよいでしょう。
また厚生労働省の『ストレスチェック制度実施マニュアル』
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf
には「CES-Dなどのうつ病のスクリーニング検査を行うことも考えられる」
(69ページ)と記載されていますので、これらのツールから選択して使用す
ることが妥当だと考えます。
ここまでの確認を経て、総合評価と労働者への指導を行った後に、事業
者への意見具申として、「面接指導結果報告書」と「就業措置に係る意見
書」を作成します。睡眠や休養などの保健指導のみにとどまらず、就業制
限や配慮について記載する際、私は面接対象者の同意を得て上司や人事・
労務担当者に同席してもらい、最終案を確定する場合があります。これは
面接対象者個人の考えのみに偏らずにバランスのよい対応を行うためのも
のです。
ストレスチェック制度が導入されてから、「非精神科医が面接してもよ
いのか?」とのご心配を聞くことがありますが、面接指導では、精神科診
療での問診や精神疾患の診断、投薬治療の開始などは期待されておらず、
事業場の実態を知る産業医が、面接対象者の職場のストレス要因に対処し
たり、適切な職場環境調整や改善への意見を述べたりすることが主に期待
されています。産業医の先生方には、上記のマニュアルに定められた聴取
すべき項目を丁寧に確認し、必要な指導の上で報告書・意見書を作成して
いただくとよいと考えます。必要に応じた精神疾患の鑑別には、「うつ病
の簡便な構造化面接法」などのスクリーニングツールを使用することが推
奨されます。
森口 次郎