産業保健コラム
山田 達治
所属:京セラ株式会社 本社 専属産業医
専門分野:産業医学・メンタルヘルス
お酒を愛するならば
2016年2月1日
私は製造業本社の専属産業医を勤めています。今年度から、2つの子会社が同じ機関で健康診断を受けるようになり、揃ったデータが入手できるようになったので、本社を含めた3社で有所見率などを比較してみました。IT系のA社は、年齢層が非常に若いこともあって有所見率は低くなっています。 ところが、営業販売に特化したB社は、生活習慣病の有所見率が明らかに高いのです。特に高血圧で著明な差が出ています。年齢構成は本社と変わらないので奇妙に思えます。そこで、健診機関から問診票のデータも取り寄せ、本社とB社で比較してみました。
肥満、睡眠不足、飲酒の量や頻度、運動習慣など、血圧に直接影響を及ぼしそうな因子には有意差が出ていません。他の生活様式まで広げてみると、「就寝2時間以内に夕食を摂ることが週に3日以上ある」という項目のみ、本社とB社の間で、ある程度の差が認められました。営業販売部門に固有の理由があるのかもしれません。
さらに詳しく調べると、遅い夕食は飲酒習慣との関連があります。ほとんど飲酒をしない人を基準にすると、 遅い夕食になる確率が時々飲酒をする人では1.9倍、頻繁に飲酒する人では3.9倍になります。 また、遅い夕食が多い人は、そうでない人に比べ、体重が10KG以上増加している確率が1.5倍になります。
アルコールと血圧の関係は複雑です。飲酒すると短期的には血圧は低くなる場合もありますが、やはり長期の飲酒習慣や多量の飲酒は血圧を上昇させると言われています。単純にアルコールがもたらす生理学的影響だけでなく、食事の時間が遅くなるという行動の変化があり、それが日常化すると肥満になる。飲酒と血圧の関係は、生活様式や体質の変化を含めて重層的にとらえるべきなのでしょう。
お酒が好きな方にとって、 飲酒を控えることは容易ではないかもしれません。私は下戸ですが、気持ちは分かります。甘いものが大好きな私は、多忙とストレスの中、いつの間にか糖分の中毒になっていた時期があります。当時は好きで食べているつもりでしたが、実態は依存症でした。一念発起して間食を生野菜やナッツに切り替え、糖質中毒を脱してからは、あのような食べ方ではせっかくのチョコレートも少しも楽しめてはいなかったと気づきました。ストレスに駆られてムシャムシャ食べてしまうというのはスイーツを愛する人間として恥ずべきこと、チョコレートに対する冒涜ですらあります。
この経験から私は常々、弊社の従業員たちにこう言うようにしています。
ストレスと惰性で毎日安い酒を飲むなんて、お酒の神様に失礼です。お酒を愛するのであれば、ときどき良い肴を用意して、頑張った自分への御褒美に、とっておきのお酒を楽しむ習慣をつけてはどうでしょうか。惰性の飲酒を我慢している分だけ、格別美味しく感じられるはずです。
山田 達治