産業保健コラム

山田 達治


所属:京セラ株式会社 本社 専属産業医

専門分野:産業医学・メンタルヘルス

「朝食抜き」が増えた背景

2024年8月1日

 「腹が減っては戦はできぬ」という言葉があるように、昔の人は、頑張るためには栄養を十分に摂らなければならないと考えていました。一方、現代ではカロリーが少ないことを「ヘルシー」と表現することも多く、栄養の不足には無頓着な人が少なくないように思えます。

 

 健康診断の問診票には、朝食を摂る習慣があるか否かを問う項目があり、以前から、若い世代ほど朝食を摂る習慣が少ないことは気になっていました。驚いたのは2023年の新入社員の健康診断結果です。彼らが朝食を摂っている割合は他の年代の人々よりも大幅に低く、女性では約半数、男性は6割が毎日朝食を摂る習慣がありませんでした。彼らは大学生活の大部分を新型コロナの行動制限によって「巣ごもり」生活で過ごした世代であり、毎朝学校に出かけていくという生活リズムの喪失が、食習慣にも影響したのではないかと推測します。

 2020年以降、在宅ワークの比率が多くなった従業員の中にも、食習慣が崩れた人は少なくありませんでした。会社に出勤する日は朝も昼もそれなりに食べるが、在宅ワークの日は、ついつい食事を抜いたり、お菓子をつまんで済ませていたりするのです。いわゆる「現代型栄養失調」です。必ずしも健康診断結果で低栄養の所見が出ているとは限りませんが、めまい、起床困難、頭痛などの愁訴が続く場合には、原因として食習慣の乱れを疑ってみるようにしています。

 

 食欲不振は「うつ病」の代表的な症状の一つであり、我々は病勢の変化を知る上でも、食欲について注意を払ってきました。しかし、休職という生活スタイルの大きな変化により、きちんと食事を摂る習慣が崩れているという可能性も見落としてはなるまいと思います。うつ病だから食欲が出ないのは当然、と思うのではなく、しばらくの静養と治療を経ても、食事を満足に摂れるようにならないようなら、食事指導の面から回復を図るという視点も必要ではないでしょうか。

山田 達治