産業保健コラム
須賀 英道
所属:龍谷大学 保健管理センター教授 センター長
専門分野:精神科診断学・メンタルヘルス教育
過度な合理的配慮の横行する学生メンタルヘルス事情
2024年12月2日
最近の若手のメンタルヘルス事情で気になることがある。大学生に対する過度なまでの合理的配慮である。これは特に私立大学系に見られる現象であろう。学生が気軽にクリニック受診し、合理的配慮の診断書を求めて来る。診断書の提出によって、講義の欠席やプレゼンの免除などが容認されることになるからである。合理的配慮は元来、一般学生に比して障害を持つ学生が教育を受ける際に不利な条件が与えられることのないように適時是正されることが求められるものである。しかし、障害学生への合理的配慮という言葉が独り歩きし、今では一般学生より有利な条件が与えられるという状況になっているのである。例えば、不安症の診断書によって講義出席やプレゼンが免責となり、単位取得可となっている。他にも、ADHDやLD、ASDのみならず、うつ病診断によっても同様な事態となっている。このことは入試での合理的配慮にも広がっている。パニック症の個室受験やトイレ同伴などは確かにパニック発作対応への合理的配慮といえるが、最近では発達障害系への受験時間の延長容認までが生じている。さらに、LD診断によって、参考資料の持ち込みや質問用紙の漢字にルビをふることが容認されたことには驚くばかりである。この取り決めは既に学生の所属する高校側から合理的配慮の必要性を求める診断書添付によって、大学側も容認することである。こうした学生の入学後の対応は大変である。通常授業には学生本人はレベルがついていけず、その結果、合理的配慮の診断書によって単位取得となる。卒論免除配慮も最近では見られる。こうした状況は、大学で教育を受けるという目的から外れ、大学卒業というステータスを得るのみとなっている。この傾向が障害学生の親側の要望から私立大学ではますます強まることが予想されるのである。そして、今後は就労環境における合理的配慮にまで広がるかもしれない。
須賀 英道