産業保健コラム
杉本 二郎
所属:杉本医院からすまメンタルクリニック 院長
専門分野:産業精神医学・精神科治療学・心身医学
コロナ禍3年目の産業メンタルヘルス対策~テレワークについて~
2022年5月2日
新型コロナ感染症が地球上にまん延して3年目に入っています。加えて今年2月からロシアによるウクライナ侵攻により世界の政治経済や社会は大きな危機に直面しています。ロシアに隣接してエネルギー資源の少ない日本も東日本大震災以来の深刻な事態を迎えています。
コロナ禍での長期に亘るストレスが続く中で、大国による侵略戦争に伴うもう一つの大きなストレスが加わったといえます。
こういった二重のストレスを抱えて生活していますと、職場や家庭での些細なストレス因が加わる事で心身の反応が起こりやすくなります。
その中でもコロナ禍で加速されたテレワークが注目されています。テレワークは職場以外の定められた場所で仕事をすることで、リモートワークは職場以外の場所での業務一般を示す幅広い定義と言えます。
テレワークには通勤時間の節約や、フレックスタイム制度との併用で育休明けの職場復帰が容易となり女性の離職者が減る、対人関係が苦手な人が安心して働ける、等々の長所があります。
反対に勤務時間や勤怠の把握が困難、長時間労働やサービス残業の増加等々の短所が挙げられていますが、何よりも職員同士の対面の機会が減る事、慢性的な孤立感、気軽に相談しにくい、新入社員や異動した人が十分な研修・引き継ぎ・指導を対面で受ける事なく新しい職場(しかもリモート)で仕事をしなければならないこと、この為に適応障害を起こして心療内科・精神科を受診される方が増えていること、等々の弊害も指摘されています。
また、これまでの生活スタイルからの大きな変化により家庭内での問題が浮き彫りとなり、DVや虐待、離婚、アルコールやギャンブル依存症等々が増加しています。
加えてコロナ禍でのテレワークで67%の方が運動不足であると答え、睡眠リズムの乱れ、体重増加、高血圧症や高脂血症、心臓疾患、糖尿病の増悪等々身体疾患が増えているという報告も出ています。
ストレスがうまく処理できないとこのように心身と共に行動面でも障害が生じます。ストレスフルな状況にある時こそ人と人との温かな触れ合いが望まれます。ちょっとした言葉が人をホッとさせます。
情報通信技術(ICT)を活用したテレワークの利便性と同時にその弊害にも目を向けた産業メンタルヘルス対策が求められています。詳しくは厚労省「こころの耳~テレワークでのメンタルヘルス対策について※」にアクセスしてください。
私は、在宅勤務の方には「朝の出勤時間には〝行ってきます″と声を出して家を出て通勤時間分のウォーキング、帰宅してパソコンを開いて〝おはようございます″と挨拶して業務開始。昼は〝昼食に行ってきます″、終業時間には〝お先に失礼します″と声を出してパソコンを閉じ再びウォーキング、帰宅時には〝ただいま!″と大きな声を出してください」と1日のメリハリをつけるよう勧めています。特に単身の方にはこうする事で生活リズム感を失わないよう注意を促しています。おかしいのではないか?と思わないでください。おかしいのは世の中の方です。このぐらいやらないと普通の人はテレワークの波に押し流されてしまうかもしれません。
とにかく、いろいろと自分流の工夫を凝らしてこのコロナ禍と戦争という大変な時代を乗り越えてください。
※厚生労働省 こころの耳~テレワークでのメンタルヘルス対策について
→https://kokoro.mhlw.go.jp/telework/
杉本 二郎