産業保健コラム
南部 知幸
所属:もみじヶ丘病院 理事長
専門分野:精神医学(精神病理学、青年期精神医学)
ストレスチェック制度の義務化に思うこと
2016年3月1日
平成27年12月1日からストレスチェックの施行義務が事業所に課せられた。従業員が50人未満の事業所は努力義務であるにしても、この制度の導入は、職場のメンタルヘルス対策に大きな変化を引き起こすと思う。その変化は、概ね働く者に有効に作用すると思われるが、事業所にとっては、配慮すべき点も多く、ナイーブな事柄になる可能性もある。
今日、働く者の約6割が何らかのストレスを感じていると言われているが、ストレスを感じている全ての人が心身に異常を来すわけではない。ストレスに対するその人自身の耐性能力や周囲からの援助等、様々な要素が複雑に絡み合い、心身に不調を生じる。
様々な要因が複雑に絡み合うことから、心の不調の原因は容易に判断できない。精神科の診断が曖昧とならざるを得ない由縁である。外因(身体因)、内因(原因不明)、心因に3分類するのが伝統的な精神障害の分類であるが、その鑑別は、理論上は明確であっても、臨床上は簡単にいくものではない。うつ病と言う、ある意味では明確だと思われている病一つをとってみても、反応性うつ病、内因性うつ病、器質性うつ病と大まかには分類されるが、脳器質性変化に伴ううつ状態でも、脳の器質的変化そのものがうつ病を引き起こしたのか、脳器質性の変化が性格変化を生じ、ストレス脆弱性となり、反応的にうつ状態となったのか、脳の変化と関係なく生じたのか、その鑑別は容易ではない。現代的うつ病として様々に論じられる病態となれば、さらに事態は複雑化する。
それに比しストレスチェック57項目はすこぶる明確である。「ストレス要因」「ストレス反応」「周囲の支援」に分けられ、それら3領域の関係性が容易に把握できる。診断は重要であるが、確定できなくても一応の対応は可能である。ストレスチェックの利点を生かし、広い視野に立っての相互連携が期待される。
南部 知幸