産業保健コラム

南部 知幸


所属:もみじヶ丘病院 理事長

専門分野:精神医学(精神病理学、青年期精神医学)

雑感

2020年10月1日

 今年は梅雨が長引き、明けた途端に猛暑となり、残暑も長く、熱中症への注意が喚起されてきました。しかしながら、我々を心晴れない日々にさせている大きな原因は、言うまでもなく新型コロナウイルスであると思います。我々の病院でも、少数ながらPCR検査がなされ、結果の出る1,2日間の不安は大変なものでした。新型コロナウイルスが問題となり始めて10カ月余り、3密(密接、密集、密閉)と大声での会話の回避、マスク着用や手洗い、うがいの励行で感染防止がかなりの程度可能であることが解ってきました。また若い年齢を中心に無症状者,軽症者が多く、高齢者以外は重症化する確率が低いことなども指摘されております。それでも新型コロナウイルスへの不安は大変強いものがあります。

 

 1年前頃にベストセラーとなったハンス・コリンズ著の「ファクトフルネス」を読み、「事実に基づく世界の見方」には「分断本能」「ネガティブ本能」「直線本能」「恐怖本能」「過大視本能」「パターン化本能」「宿命本能」「単純化本能」「犯人捜し本能」「焦り本能」の十の本能を抑えることが重要である点を知りましたが、今回、新型コロナについて、マスコミ等からの情報に右往左往する自分を見出し、上記の本を読み直してみました。確かに著者が指摘する点、いちいちもっともだと理解はできるのですが、だからと言って新型コロナウイルスへの不安が消えると言うことはありません。

 

 中世のヨーロッパで住民の四分の一がペストで亡くなり、1918年頃にスペイン風邪で4千万人が、わが国でも38万人が亡くなった事などに比し、今回の我が国の新型コロナウイルス感染症の死亡者数がはるかに少ない事実を知ってはいても、リスクゼロを求める我々自身がいる限り、不安から逃れ得る事はないように思われます。諸行無常の人の世にリスクゼロなどあるはずはないと解ってはいても。

南部 知幸