産業保健コラム

今坂 一郎


所属:

専門分野:シニア産業カウンセラー

3・11東日本震災地福島県を訪れ心に残ったこと

2020年4月1日

昨年6月に京都法然院遊心会の呼びかけによる福島県祈りの旅(3泊4日、15名)に参加した。3・11の3年後に初めて訪れた宮城県南三陸町では、津波により家屋が喪失した生々しい被災地などを目にした。8年が経ったので、復興はかなり進んでいるであろうと予期しての旅であった。
予期したとおり、地形や家屋など外観的な復興は進んでいる様子がうかがえた。しかし、いわき市北部の海岸沿いでは、高さ7mのコンクリート防潮堤が延々と築かれ、バスの中から海がまったく見えないことにある種の違和感を抱いた。福島第一原子力発電所の近辺では未だに帰還困難区域が存在し、国道沿いの畑地には汚染土の詰まった黒いフレコンバッグが山積みされていた。
強く心に残ったのは、東京電力廃炉資料館を訪問した時のことである。この記念館は、事故が起こった福島第一原子力発電所から南10㎞ほどの富岡町に、事故の事実と廃炉の現状を伝える場として、一昨年11月30日に東京電力により設けられていた。館内には原発の全景模型、事故当時の映像、廃炉作業がわかる映像、震災直後の新聞記事など種々多数のものが紹介展示され、一部は撮影禁止となっていた。訪問時の入館者数は、われわれを含めてもごく少数であり、館内全体には重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

京都に帰った後、法然院の梶田真章貫主から資料館で働く職員の方々と対話したことを伺った。事故前は東京電力の子会社の社員として東京で営業をしていたが、事故後は使命感から千葉県に家族を残して単身赴任している人、事故前は東京で映像関係の仕事をしていたが、事故後に地元故郷の危機に際して、東京電力に入社し説明責任を果たそうとする人など、真摯に職務を務めようとする方々がいたと伺った。
重大な事故を起こした原発の廃炉作業や先の見えない汚染水処理という課題もあって、原発を存続するか廃止するかが議論されている。その中で、自ら選んで入社した会社と地震発生により環境が激変した職場において、職員は複雑な思いを抱いて働いていると想像され、そうした気持ちに寄り添うことの難しさについて考えた。他の面では、現地に泊り食事をして観光地で土産物を買うなど、当地にお金を落とすのも復興支援のひとつかと僭越ながらも思った。

今坂 一郎