産業保健コラム
花谷 和雄
所属:花谷社会保険労務士事務所
専門分野:社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
産業カウンセリングの現場から
2015年5月1日
私は、カウンセラーとして活動すると同時に時々メンタルヘルスのセルフケアやラインケアの研修をする機会を頂いて話をすることがあります。
その時、メンタルヘルスの現状の説明に平成18年7月に発表された『職場での助け合いやコミュニケーションが減少している企業ほど心の病が増加傾向』と言う公益財団法人社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所が発表した「メンタルヘルスの取り組みに関する自治体アンケート調査結果」をよく引用します。
この調査が発表されたのは、今から9年前ですが以前から私の相談室で多くある相談内容の「職場でのコミュニケーションがとりにくく、そのことがしんどい原因です」と言う訴えと非常によく符合しているのにびっくりします。このアンケートから9年も経っていますがこの状態が改善されているようには見受けられません。
現状の組織が大変息苦しいものになっていることは、大変残念なことです。
同じ社会経済生産性本部が平成24年11月に発表したアンケート結果では、
「職場に人を育てる余裕がなくなってきている」(76.1%)「管理職の目が一人一人に届きにくくなってきている」(69.7%)「仕事の全体像や意味を考える余裕が職場になくなってきている」(68.3%)と言う結果が出ています。
この結果と平成18年の結果とを総合して考えると組織全体に余裕がなくなってきていることが伺えます。それは、現在のトレンドの成果主義と直結しているように私は感じています。
成果重視の組織では、人間関係が助け合う関係ではなくライバル関係になってしまいコミュニケーションの希薄化が進んでいるように思えるのです。象徴的なエピソードとして私が聞いたのは、ある職場で「挨拶をしよう運動」と言う呼びかけがあったと言うことです。コミュニケーションと言うより人間としての基本的な動作と思っていた挨拶も出来ていない状況があればコミュニケーションもとれる筈がないと妙に納得しました。
平成18年の調査でもこう言っています。「心の病の増加傾向を押さえていくためには、職場における横のつながりの回復と、責任と裁量のバランスがとれているような仕事の仕方の改革、そしてそれらを含めた意味での一人ひとりの働きがいに焦点を当てた活力ある風土づくりが喫緊の課題である。」と。
働く人にとって組織の中の人間関係とは無縁でいられないにもかかわらず組織が人間関係を重視する組織風土がまだまだ定着していないことを痛感しています。
しかし、ぼやいているばかりでは何も進みません。現状をしっかりと認識しより良い方向に進めるようにカウンセリングやセミナーを通じて微力ですが働く人をサポートできればいいなあと思っています。
花谷 和雄