産業保健コラム
花谷 和雄
所属:花谷社会保険労務士事務所
専門分野:社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
相談室の現場で思うこと
2016年9月1日
いま在籍している相談室の勤続年数が早くも12年になりました。この
間、様々な方が来室してこられました。また、相談内容も以前に比べると
少しではありますが変化を感じます。それでも変わらず多い相談内容が職
場の人間関係です。単に「職場の人間関係」といってもその内容は、限り
なく多様です。人間関係と言えば常識的には、上下関係、同僚との関係に
尽きる訳ですが課題の発生のプロセスは、かなり複雑です。現実には、職
務からまた、組織から発生する課題が人間関係をより複雑にしているから
です。
このことについては、機会があれば実例を交えて述べたいと考えています。
普遍的に言えることは、既に皆さまご存じの通りやはりコミュニケーシ
ョンの善し悪しが人間関係に大きな影響をもたらすと言うことでしょう。
ただ、最近気になることが出て来ています。それは、「私は、コミュショ
ウです。」と言い切る来室者が多いことです。念のため、「コミュショ
ウ」とは、「コミュニケーション障害」のことで特に若者達の間では、広
く使われているようです。
昨今、精神医学が発達し、また脳科学が進歩してきて今まで仮説でしか
なかったことが立証されたり今までの常識が覆されたりしています。 た
だ、マスコミが検証も十分でない学術論文を興味本位で取り上げてど派手
に喧伝する情報を鵜呑みにして信じてしまっている人が多くいる現実があ
りこのことは、危険でもあるし残念でもあります。
医学が発達して人類の福祉に役立つことは、喜ばしいことだとは思いま
すが同時に正確な知識が不可欠だと思います。 昨今、精神医学において
は、特に「・・・障害」と言う言葉が一人歩きしているように思えてなり
ません。情報の普及によって今までわからなかったことがわかり易くなっ
てきたことは、有り難いことですが同時に情報過多になってどの情報が
正確か、判断することが難しくなってきている状態も起きています。
相談室の来室者に限らず精密な診断を受けた訳でもないのに「私は、アス
ペです」「私は、発達障害です」「私は、コミュ障です」と自ら言い出す
人が多くいるのに驚かされます。それも深い意味や理解があって使ってい
る訳でもなくごく自然にこれらの用語が使われることに改めて時代の変遷
を感じます。
私が相談室の担当となった頃は、人目を避けるようにして来室する方が
多くいらっしゃったのですが最近は、周囲の目を気にすることなく来室さ
れるかたが増えたことは喜ばしいことですしメンタルヘルス上の課題を
オープンに話せる土壌が生まれてきたと感じて素晴らしい進歩だと思うの
です。
ただ、残念なことにこれらの用語を使う人たちが「職場の人間関係」と言
う大きな課題から逃れたいための方便として使っていることが少なからず
あると感じることです。つまり自分は、「・・・障害」だからコミュニケー
ションがうまくいかないのは病理のせいだと主張していることが多いよう
に感じます。
勿論、人は、いつでも課題に正面から立ち向かえる訳ではありませんし
逃避も重要な手段だと思います。しかし、来談者が逃避に終始するのでは
なく、課題と対峙して解決を図るためのサポートを何処まで出来るかが相
談員の課題となってきていています。
相談員の仕事は、やり甲斐のある反面、相談員のあらゆる面での向上が求
められていると実感しています。
花谷 和雄