産業保健コラム
森崎 美奈子
所属:京都文教大学 臨床心理学部 客員教授
専門分野:臨床心理学 精神分析学、産業精神保健、労働衛生、職場不適応支援 他
チームが活性化する 『職場の心理的安全性』
2023年6月1日
1.はじめに
ここ数年、ビジネスの世界で「心理的安全性」が注目されています。
〝心理的安全性〟とは、組織論の話であり、生産性活動に繋がる理論ですが、激変する社会情勢のなかで、産業保健スタッフ等には労働者の健康を守り、企業の経営に貢献するために、産業現場の最新の動向や情報を適切に知る事、時代のニーズに対応できる事が求められます。〝心理的安全性〟を、職場改善・組織づくりへ応用し、従業員の心身の健康づくりと事業成果(生産性)向上へ貢献できるのではないでしょうか。
2.心理的安全性とは何か
〝心理的安全性(psychological safety)〟とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態であり、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に〝チームの心理的安全性〟という概念を提唱しました。心理的安全性とは「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」です。メンバー同士の関係性として「このチーム内では、〝メンバーの発言や指摘によってチーム内の人間関係の悪化を招くことはない〟という安心感がメンバー間で共有されていること」が重要なポイントです。心理的安全性が高い状況のチームでは、メンバーはどんな疑問・質問やアイディアを提案してもチーム内で受け止めてもらえると信じているので、思いついたアイディアや考えを率直に発言することができる安心感があるのです。産業保健スタッフが、風通しの良い組織風土づくりを目指しているメンタルヘルス活動と同じ視点と言えると思います。
3.Googleの研究
心理的安全性の理論がビジネスの世界で注目されたのは、Googleが、生産性の高い働き方をしているのはどのようなチームなのかを検証するプロジェクトを立ち上げ、2015年に〝成功するチームは心理的安全性が高い〟と発表してからです。生産性アップの成功ポイントとして、チームに心理的安全性(psychological safety)、信頼性(Dependability)、構造と明瞭さ(Structure & clarity)、仕事の意味(Meaning of work)、インパクト(Impact of work)の5つが関係していること、そのためには、チームとしての生産性が向上する環境づくりが大切なことが明らかにされたのです。更に、生産性の高いチームには、「均等な発言機会」と「社会的感受性の高さ」の二つの要素が見られたのです。メンバーに均等な発言の機会があり、メンバーに社会的感受性があるチームは生産性が高くなるとの事が明らかにされました。
メンバーに気兼ねなく発言できる職場環境が生産性の高いチームをつくる基礎であることが示唆されます。メンタルヘルス活動やストレスチェック後の結果活用に取り入れて、職場改善を効果的に推進する際に導入が望まれる視点と言えましょう。
森崎 美奈子