産業保健コラム

村田 理絵


所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長

専門分野:産業保健・保健指導

遠隔保健指導を実際やって分かった重要なポイント

2021年8月2日

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、ICTを活用した保健指導(遠隔保健指導)が急速に拡がってきています。
 遠隔保健指導の法的位置づけについては、産業医以外の産業保健スタッフについては、規制は置かれておりませんが、保険者が実施する特定保健指導については、通達(平成25年8月1日付け健発0801第1号保発0801第8号)で遠隔保健指導が正式に認められています。

https://jhep.jp/jhep/sisetu/pdf/tsushin1.pdf

https://jhep.jp/jhep/sisetu/pdf/tokuho_it.pdf(指導の実施の手引き)

 

 労働衛生機関の保健師として遠隔保健指導を実際にやった経験から、遠隔保健指導の問題点、指導内容でのメリット・デメリットについて指導者側・対象者側の視点から述べさせて頂きます。

 

Q1.遠隔保健指導を実施する上での問題点・苦労した点とは?

A.指導者側:指導場所の確保(個室、ネット環境整備)、機器の整備(パソコン、ヘッドセット等)、遠隔会議システムの準備、操作方法や遠隔保健指導のコツを掴む(本人確認の仕方、資料共有方法等)、担当者向けの遠隔保健指導のマニュアルの作成が必要、事前に資料や招待メールを送信、通信テストが必要。通常の指導より時間を要する。

対象者側:上記に加えて、指導場所の新型コロナ対策(消毒液の整備、換気等)、指導場所へ誘導する担当者が必要。

 

Q2.遠隔保健指導する上で、指導内容でのメリットとは?

A.指導者側:対象者が遠方であるほど移動にかかる負担の軽減になる。

指導ニーズの低い指導対象者等に対し、気軽に指導ができる。

対象者側:テレワークの方にとって、社内より比較的リラックスして指導が受けられている方が多い。また、テレワークの方は指導で話をすること自体がストレス解消になる場合がある。対面より気軽さがある。指導場所へ移動の負担軽減になる。

 

Q3.遠隔保健指導する上で、指導内容でのデメリットとは?

A.指導者側:視覚・聴覚情報のみに頼って、対象の雰囲気を読み取るのにエネルギーを要する。そのため、指導に集中しにくくなる。マスクをしていると、対象者の表情が読み取りにくい。遠隔操作に不慣れの場合、それ自体がストレスになる。対面で簡単に説明できることが遠隔の場合、時間を要する場合がある(例.健診結果の説明)。対象者の職場環境が見えにくい。個人情報やプライバシー保護の懸念。緊急時対応の懸念(希死念慮の訴え等)。

対象者側:ネット環境がよくない場合、それ自体がストレスになり、指導に集中できない。会話のタイムラグにより指導者に話す意欲を失う場合がある。視覚・聴覚情報のみのため、指導内容が機械的に聞こえたり、指導者に対象者の思いが伝わりにくい場合がある。

 

 遠隔保健指導は、先に述べた通り、指導者の指導技術以外の様々な要因の影響を受けますそのため対象者のニーズにあった指導ができるよう

① 遠隔保健指導のメリット・デメリットを理解する
② 時間配分に余裕をもつ
③ “保健指導に集中”して臨む ことが重要です。

村田 理絵