産業保健コラム
村田 理絵
所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長
専門分野:産業保健・保健指導
「産業看護の定義」をご存じですか
2023年9月1日
国内で、COVID-19の感染者確認から3年半が経過しましたが、この間、多くの人々の命や健康、経済や社会活動に大きな影響を与えました。また、働く人々に新たな健康課題を生じさせ、Well-beingの実現等、私達の「価値観」や「働き方」にも大きな変化をもたらしています。
そのような中で、私達産業看護職が日本の元気を支えるために産業看護の力をさらに発揮していくには、礎となる「産業看護の定義」をしっかりと定めることの重要性が言われるようになりました。
産業看護の定義については、幾つかの学会や団体がそれぞれ異なる表現で示しています。
2005年4月に日本産業衛生学会産業看護部会より
「産業看護とは、事業者が労働者と協力して、産業保健の目的*1 を自主的に達成できるように、事業者・労働者の双方に対して、看護の理念に基づいて*2 組織的に行う個人・集団・組織への健康支援活動である」と示されています。
*1 産業保健の目的 ILO/WHO(国際労働機関/世界保健機関)合同委員会より
1.職業に起因する健康障害を予防すること
2.健康と労働の調和を図ること
3.健康および労働能力の保持増進を図ること
4.安全と健康に関して好ましい風土を醸成し、生産性を高めることに
なるような作業組織、労働文化を発展させること
*2 看護の理念とは
「健康問題に対する対象者の反応を的確に診断し、その要因を明らかにして、問題解決への支援を行う、その支援に際しては、相手を全人的にとらえ、その自助力に働きかけ、気持ちや生きがいを尊重することが求められる」
2022年4月に日本産業衛生学会産業保健看護部会より新たな定義が以下の通り、公表されています。
ここでは“産業看護”という名称を一次予防の視点を重視し、“保健”という概念をとりいれ“産業保健看護”としています。
「産業保健看護の対象は、すべての労働者および事業者であり、個人のみならず集団・組織をも含む。その目的は、健康と労働の調和を保つことであり、ひいては労働生産性の向上および持続可能な社会を実現することである。これらの目的達成に向けて、看護学を基盤として、経営的視点を念頭に置き、かつ公平・公正な立場から事業者と労働者の自主的な取り組みを支援する。産業保健看護専門職は、系統的な情報収集およびアセスメントにより抽出された個人・集団・組織の健康課題を連動させながら、課題解決に向けて事業場内外と連携を図り、協働および仕組みづくりを行う。これらを通して、労働に関連する健康障害の予防、労働者の生涯にわたる自律的な健康行動の確立、労働者が健康で安全に働き続けることができる職場環境づくり、さらには職場風土の醸成に寄与するものである」
現代は、VUCA時代と言われており、私達産業看護職が担う産業保健活動についても、“産業看護の定義”をしっかり認識しつつ、これまでとは違った方法で行ったり、価値観を柔軟に変化させながら、対応していくことも必要ではないかと思うようになりました。
所属先の組織変更に伴い、私自身、業務内容と役割が変化した際には、産業看護職としての新たな役割について悩んでいました。そんな中、他の産業看護職から、これまでの経験や考え方をお聞きし、多くのヒントと元気をいただきました。そして、産業看護職とは、支援する方に元気を与えるだけでなく、支援される側からも元気をもらう。言ってみれば、「人」と「人」とを繋げていく存在であることに改めて気付かされた次第です。
2023年度の研修会は、他の産業看護職とも交流がもてるような方法で検討しています。多くの産業看護職の方の参加を心からお待ちしています。
繋がりましょう!!
村田 理絵