産業保健コラム
高田 志郎
所属:(一財)京都工場保健会 顧問
専門分野:健康、安全、環境の分野
化学物質のリスクアセスメントと個人ばく露測定について
2014年7月1日
今般、労働安全衛生法の改正(6月25日公布)が行われ、化学物質管理のあり方について見直しが行われました。具体的には、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質(安全データシート(SDS)の交付が義務付けられている640物質)について、事業者に危険性または有害性等の調査(リスクアセスメント)が義務付けられることになりました。一部の事業場においては、これまでも法定項目についてリスクアセスメントの実施が義務付けられていましたが、今後は640物質に該当する化学物質を取扱うすべての事業場に適用されることになります。これらについては、今後施行される政省令において詳細が示されます。
さて、一方、化学物質についてのリスクアセスメントの実施については、リスクを評価する際に、本来は個人のばく露濃度等の測定結果から危険・有害性の見積りをすべきところを、無理やり作業環境測定結果等を基に実施していました。しかし、これまでの調査によると、作業環境測定結果等によって危険・有害性を見積もった場合、より安全側(厳しい側)に偏る傾向があることが分かりました。つまり、リスクアセスメントの結果、場合によっては、リスクの度合いが過剰に評価され、不要な投資を求められる可能性があることが分かりました。そこで、本来の手法である個人ばく露の測定が浮上してきた訳です。
個人ばく露の測定は、現在、屋外における有害作業等において実施されていますが、屋内作業における実施の義務付けはありませんので、ほとんどの作業者および作業環境測定機関においても実施の経験がないものと思われます。この改正労働安全衛生法が施行されると、前述の理由から、個人ばく露の測定を希望する事業所が増えることが予想されます。しかし、困ったことに、個人ばく露の測定についてはいくつかの問題があります。まず、個人ばく露の測定は、原則、始業から終業までで、一般的には8時間測定を継続します。個人サンプラーは測定する物質によって異なりますが、例えば有害な金属粉じんのサンプラーですと少し重たいサンプリングポンプを腰にぶら下げて作業をすることになり、作業者への負担が大きくなります。また、640物質すべてについて測定ができるかというと、それも不可です。これら以外にも解決しなければならない問題をたくさん抱えていますので、すぐに個人ばく露測定を導入という訳にはいきません。
でも、ご安心ください。前述のように、直接作業者に個人サンプラーを装着すること以外にも、リスクアセスメントに対応した(リスクを見積もるための)個人ばく露濃度等を推定する方法が検討あるいは推奨されています。化学物質の管理に関わる改正労働安全衛生法の施行までは、2年程度見込まれますので、これらについて順次ご紹介します。
高田 志郎