産業保健コラム

高田 志郎


所属:(一財)京都工場保健会 顧問

専門分野:健康、安全、環境の分野

化学物質のリスクアセスメントの実施<コントロール・バンディングについて>

2015年1月5日

前回の続きです。昨年の6月に、労働安全衛生法の改正が行われました。その中の1つに、現在、文書の交付が義務付けられている640の化学物質を取扱う事業者に、これらの物質のリスクアセスメントを実施することが義務付けられました。ただし、施行は来年(平成28年)の6月の予定です。それでも、大変なことになりました。事業場で使用している化学物質が、この640物質に含まれているのかいないのか、調べるだけでも大変です。そして、もし含まれていた場合には、いよいよリスクアセスメント(以下「RA」と略します)の開始です。
 一般的なRAの手順としては、①職場で取扱う危険・有害な物質の洗い出し、②これらの危険・有害な物質のリスクを見積もる、③リスクの優先度の決定とリスク低減対策の検討、④低減措置の実施と記録、となっています。この中で、もっともやっかいなのが、②の「リスクの見積もり」です。化学物質のリスクについては、化学物質そのものの危険・有害性だけでなく、直接作業者に影響を与える、職場における気中濃度の状態を知る必要があります。そのためには、作業環境測定または個人ばく露濃度の測定が必要になりますが、残念なことに前記の640物質のほとんどについて、測定する手段がありません。
 さて、今回ご紹介するのは、「コントロール・バンディング」という耳慣れない手法です。これは、中小企業向けに作成された化学物質のリスクを見積もることができる簡易的な手法のことです。つまり、ややこしい作業環境測定とか、個人ばく露測定を行わなくても、かなりアバウトになりますが、リスクを見積もることができます。ただし、わが国においては、法令で作業環境測定の実施が義務付けられている化学物質があることへの留意が必要です。と言いますのも、もしこれら化学物質に係る作業環境測定を怠ると、罰則を受けることになりかねないからです。
 コントロール・バンディングは、上記の②の項目が中心となります。すなわち、職場における危険・有害物質の洗い出しが終わった段階で、これらの物質の危険・有害性の調査にかかります。まず、手元に上記の640物質のリストを用意し、これらの物質の有無を調べます。リストに合致した物質があれば、今度はSDS(安全データシート:ネットで簡単に調べることができます)でもって、GHS分類区分(急性毒性等の有害性のレベル(HL:ハザードレベル))がどうなっているかについて調べます。もし、複数の有害性のレベルが得られた場合は、もっとも大きいものを選びます。
 次に作業環境レベル(EWL)について調べます。それには、使用する有害化学物質の使用量、その揮発性とか飛散性および換気の状態とか保護具の使用の有無等が要点となります。これらについては、比較的簡単に調べることができます。
 さらに、作業時間・作業頻度のレベル(FL)を求めた上で、目的であるばく露レベル(EL)を推定することができるということです。そして、上記の③、④のステップと進めることによってRAが完成することになります。
 なお、コントロール・バンディングは、職場における危険・有害物質の作業者に与えている状況について、各種測定等を抜きにしてリスクのレベルを推定する方法ですので、その結果の信頼性がアバウトであることを理解しておく必要があります。
 以上、文章で表すといかにも簡単そうですが、たいへんな作業には変わりありません。今からトレーニングしておかないと、来年の6月には間に合いません。今年は、コントロール・バンディングに関する実習を含めた講習会が各地で開催されることと思います。積極的に参加し、法律施行の際に慌てることのないよう事前準備をしっかりとしておいてください。

高田 志郎