産業保健コラム

高田 志郎


所属:(一財)京都工場保健会 顧問

専門分野:健康、安全、環境の分野

実地相談の活用について

2018年4月2日

 私(高田)も振り返ってみれば、当センターの発足時から相談員をさせて
いただき、何人かの先生方と一緒に最古参の仲間に入りました。
 そこで、これまでのいろいろな活動の中で、特に記憶に残っているもの
について、紹介しましょう。

 それは当支援センターの活動の中でもあまり知られていないものです
かつての名称は忘れてしまいましたが、職場の環境改善についての実地相
談を実施していました。特に、京都府の北部の事業場から、わざわざセン
ターまで相談に来ていただくのはたいへんなことです。そこで、こちらか
ら押しかけて行った方が、事業場にとってもメリットが大きく、センター
としても貢献価値が大きくなると考えられました。

 当初は、依頼も多くて、方々へ行かせてもらいました。現在では、メン
タルへルスについては、事業場訪問支援の依頼が多くてメンタルヘルス対
策促進員の先生方もたいへん苦労されていると聞いていますが、環境改善
については今ひとつのようです。
 電話で相談を受けた際に、「出張して実地で相談を受けることもできま
すよ。」と申し上げています。しかし、外部の人を事業場内、特に具合の
悪い職場に入れることは、なかなか衛生管理者の立場では即決できない
ようで、「上司に相談してから。」ということになり、尻すぼみになって
しまいます。かつての状況とはかなり変わってしまったようです。
 思い返してみると、大半は、法令等の改正があった時期に片寄りがち
で、また相談を受けた各監督署からの推薦によるものが多くありました。

 職場の現状把握を含む環境改善ですから、実地相談があった際には、相
談の内容について、電話でわかる範囲をお聞きして、簡易測定機器等を持
って伺うことになります。センターには、研修で使用する多種、多用な測
定機器を備え付けております。(これらの測定機器については、書籍と同
様に無料で貸し出しも行っています。(注))
 よく持って行くものとしては、デジタル粉じん計(職場のほこりとかタ
バコの煙を測定します)、風速計、騒音計、照度計、検知管による各種ガ
ス測定器一式等です。この程度だと、少し大きい手提げ袋にすっぽり収ま
ります。

 これらの測定機器は、現状把握のためのものです。また、可能な範囲で
有害物質等の発生源を特定するとともに、発散状況の調査をします。これ
らができれば、あとは対策の必要性について同行者と一緒に検討します。
 大抵の場合、現場の担当者が付き添っていますので、どこまで、どのよ
うな方法が改善費用を含めて可能かどうかについて即座に判断してくれま
す。これが、実地相談の強みでしょう。

 ただし、私なりに、この実地相談についてのルールを作っています。測
定結果および改善提案については、すべて口頭によるものです。決して文
書による報告書はお出ししません。
 私は、労働安全衛生コンサルタントとして活動しており、コンサルタン
ト会京都支部の副支部長をしています。支援センターの相談員の立場で、
無料で事業場へ出かけて、現状把握のための測定を実施して、その結果に
基づく改善計画のための報告書まで提出することは、作業環境測定機関お
よび労働安全衛生コンサルタントの領域を犯すことになると判断したため
です。これが、当支援センターの限界だと考えています。
 なお、先般義務化されましたリスクアセスメントの実施については、具
体的に示された資料等をお持ちして説明させていただけるように準備して
います。

 どうぞ、これらのことをご了解の上、ぜひ実地相談による、職場の環境
改善に活用していただきたいと願っています。

(注) 研修用機器の為、定期保守点検は行っておりません。測定値はあく
   までも目安として下さい。

高田 志郎