産業保健コラム
桑村 明男
所属:(一社)産業安全衛生研究所 理事長
専門分野:産業衛生・労働衛生工学
小規模事業場における職場改善事例
2014年8月1日
昨年の8月、蝉の声を聞きながらある地方都市の企業を訪れた。
金属加工を得意とする従業員11名の会社で、1階が作業場(約250平米)、2階が事務所、休憩室、更衣室の他に塗装室、資材置き場等が設けられていた。1階の作業場には工作機械が所狭しと並んでおり、通路が迷路のようで、はみ出した材料や仕掛品が行く手を阻んでいた。
ここ数年、軽微ではあるが労災事故が毎年のように発生しているとのこと、この現場を見て然もありなんと感じた。
知人を介して、経営者から職場巡視と4Sについて職場改善のためのアドバイスを求められた。当初、3~4回の訪問で成果が出るかと思いきや、結局半年間計7回訪問することになった。
職場改善のポイントとして以下の2点に絞った。
①4S(整理・整頓・清掃・清潔)ではなく、まず2S(整理・整頓)に特化
②作業者の動線を重視した設備の配置と物(製品、仕掛品、材料等)の置き場改善
整理・整頓は必要な物と必要でない物に分け、必要でない物は処分する、ということですが、まずこれがうまく進まない。置いておいたらいずれ使う時が来るかも知れない。と考えて置いておく。するといつの間にか不要物の山が出来る。
会社のためを思って置いている物が実は作業効率を下げ、安全面でも問題を生じている。このことに気付くと、次は必要な物以外は購入しなくなり、作らなくなってくる。
つまり会社の風土が変わってくる。ここまで持っていくのには時間がかかりますが、大きな効果が得られる。
次に作業者の動線の改善は、上記の2Sと並行して進める必要があり、設備の移動等も伴うので、事業主の理解が必須です。
方法としてまず作業分析を行います。これはIE(インダストリアルエンジニアリングです。インターネットエクスプローラーではありません)の手法を用います。紙数の関係で詳細は省略しますが、この分析の結果、多くの「無駄な動き」が発見された。
ただ、実際の職場改善に当たっては移動した方が良いと判っていても、スペースや費用、精度管理の点から断念した設備も多数あった。
このような分析、改善を進めた結果、2階の塗装室と資材置き場を1階に移すことができ、休憩中に塗装室の臭気に曝されることなく快適な休憩時間を過ごすことができるようになったこと、また、1階の作業場では作業者の無駄な動きが減ったことや、照明設備を追加して職場を明るくしたことで作業改善の効果を実感してもらえたと思っています。当初、あまり協力的でなかった作業者の方たちも、回を追うにつれ作業がしやすくなり、次第に友好的な雰囲気が生まれ、後半はずいぶん助けていただきました。
本来であれば効果の検証もしたいところですが、その後企業から特に連絡もなく、便りのないのは無事な証拠と自らに言い聞かせて、今年もまた、暑い夏がやってきました。
桑村 明男