産業保健コラム
岡本 浩
所属:岡本労働安全衛生コンサルタント事務所
専門分野:健康、安全、環境の分野
化学物質等のリスクアセスメント義務化に思うこと
2016年6月1日
平成28年6月1日からSDS通知対象物質640物質について「化学物質等
の危険性又は有害性等の調査等(リスクアセスメント)」が義務化され、各
事業場においてはどのように取り組んでおられるか気にかかります。私は
労働安全と衛生のコンサルタントですが、これまで、どちらかと言えば安
全のリスクアセスメントには馴染みがあり、相談される事業場に沿った形
で支援させていただきました。今回義務化された衛生のリスクアセスメン
トについても施行を控えてご相談を受けた事業場がいくつかあります。し
かし、戸惑う場面もいくつかあります。具体的なリスクアセスメントの方
法を説明し終わったところで、「義務化されたといっても変更、新規等の
条件が現状と比較して変わった時ですね」。私の勉強不足であればお詫び
しますが、そのとおり、指針(平成27年9月18日RA指針公示第3号)で説
明されています。現状どおりの使用実態であれば、鋭意前向きに解釈した
としても「リスクアセスメントを行うよう努めること」となります。私と
しては義務化に伴い、試行錯誤しながら支援に取り組んでいるのですが、
ちょっと腰砕けになるのが、この「努めること」、「努力義務」…の結び
の言葉です。この前も、京都の講師研修会での行政の方の質疑応答の場
面で、「法の文書の結語に努力義務が多く目につくが、何とかならない
か」、と質問されている参加者がありました。
今回の義務化においてはまだ続きがあります。改正された法律の冒頭部
分(第57条の3)ですが、「リスクアセスメントの調査をしなければならな
いが、調査結果に基づく措置は…努めなければならない」。さらに、誰が
取り組むかというところでは、事業場にとって最も大切なところですが、
ここでも化学物質管理者の指名については、「この者にリスクアセスメン
ト等に関する技術的業務を行わせることが望ましいこと」の結語になって
います。法を作り出す側と運用する側に透明な壁が立ちはだかっているよ
うに思われます。強固な壁を柔軟な壁に作り替えるのが私の役目と考えて
います。労働災害を未然に防止するための相談お待ちします。
岡本 浩