産業保健コラム

岡本 浩


所属:岡本労働安全衛生コンサルタント事務所

専門分野:健康、安全、環境の分野

作業環境測定の経験から得られたこと

2018年1月4日

 65歳の定年退職を機に、40年を超える作業環境測定機関勤めの経験から
何が得られたのか考えてみました。デザイン、サンプリング、分析、評価
のそれぞれの方法について、作業環境測定基準、作業環境評価基準が確立
された現在、経験が浅い新人でも、熟練者と変わりなく報告書の作成まで
そつなく行えるようになってきました。私が作業環境測定士になった頃は、
手探りで測定を行っていた時代ですから、全国の研究発表会でも、夜の集
会では作業環境測定の将来性を含めた議論に花が咲き、朝まで寝させても
らえなかったことが強く印象に残っています。もっとも中心的役割を果た
された熱血漢揃いの先駆者が、いつも議論に率先して参加していたからこ
そのことですが。

 最近になって、リスクアセスメントの影響を受けて、作業者のばく露濃
度の測定についての話題をよく耳にします。しかし、このことは、今には
じまったわけではなく、私が駆け出しの頃から、時間の概念を持たない
「場」の測定、つまり現在の労働安全衛生法で定めるところの作業環境測
定との比較で、どちらが作業環境管理を推進していく上で有効か、それぞ
れに派閥ができる勢いでずいぶんと議論されました。米国等の諸外国では
ばく露測定が進んでいましたが、日本では、作業者ごとにサンプラーを装
着しての測定が習慣的に、技術的にもなじまないことから見送られた経緯
があります。

 ところで、作業環境測定の経験から何が得られたかの回答ですが、それ
は、作業環境測定の行為に留まることなく、作業場が抱える種々の問題の
有無についてまで、よく見て、よく聴いて、よく考えることが一番大切で
あると思えるようになってきたことです。その経験から得られた習慣が、
労働衛生工学の相談員として今後に生かせられるように努力を続けたいと
考えます。

岡本 浩