産業保健コラム
河合 早苗
所属:
専門分野:精神医学(産業精神医学)
マスク生活を考える
2022年7月1日
マスク生活が始まって3年目になる。暑くなる時期には熱中症の危険度を増すこと、また最近ではマスクが原因のドライアイの問題など、様々な弊害があるため、欧米ではマスクを外して生活することにシフトしていっている。
日本でも今年5月20日に、「基本的な感染対策としての着用の位置づけは変更しないが、2メートル以上を目安に周りの人との距離が確保できる場面では、屋内で会話をする場合を除いて着用の必要はない」等の政府の見解が示されている。では、マスク、外せるだろうか?ある調査では、8割の人がそれでもマスクは外せないと答えている。ある意味、マスクをして外出することが日常となっている今、筆者自身もマスクの便利さもあり(顔が隠せる)自宅以外ではほぼマスク生活を続けている。
そこで気が付いたのだが、もともと顔貌認識が苦手な自分、会う人の顔が思い出せなくなってきているのだ。また、この3年間に新たに出会った人に関しては全く素顔を見たことがない、という事もありさらに顔認識が難しくなってきている。
面白いのは、ふとした瞬間に相手がマスクを外した時、素顔を見て「あれ?こんな顔だったっけ?」と思っている事。素顔を知らないはずなのに、自分の中で勝手に無意識にイメージを作り上げていて、本物のお顔を受け入れられない、という何とも言えない感覚である。
「脳のなかの幽霊」という訳本が話題になった事がある。幻肢痛等の症例の説明から、いかに脳が騙されやすいか、という事を感じた一冊である。まさに、マスクの下の顔についても騙されやすい脳が作り出しているのだろう。
精神科では治療法に認知行動療法という治療法が用いられるが、まさに脳を騙す、というお手本のようだと思う。ネガティブな受け止めをポジティブに変えていく、最初はうそっこい、なんだかおさまりの悪い感じがするが、だんだんとフィットしてきて自分の言葉、自分の考えとしておさまりがついてくる。マスクから話がだいぶそれてしまった。ご容赦ください。
河合 早苗