産業保健コラム
河合 早苗
所属:
専門分野:精神医学(産業精神医学)
健康経営とは
2024年9月2日
健康経営、という言葉をよく耳にするようになった。「従業員の健康増進」を経営的な視点でとらえ、戦略的に実施していく取組のこと、と定義されている。労働者の健康を個人の問題ではなく、企業の収益向上に必須であり、健康促進に関する支出は投資である、というところにこれまでとは違った視点で労働者の健康を考えようという狙いもある。
ここ数年、労働衛生関係の雑誌やHPには、「健康増進セミナー」とか、「健康増進チャレンジ」などの話題が増えた。また、好事例の中には「健康のため、階段を使うようにした」などが挙げられてくる。そんなことは当たり前と思っていたのだが。
さて、ここで私事になるが、昨年、難病指定されている病気にり患し、原疾患はコントロールできているものの、右足足底、指の感覚麻痺、運動障害、しびれなどの後遺症を抱えての生活となった。以前ならよし、階段を使おう、と思えたのだが、さて、今は?よろよろと階段を上った結果、ふらついて転落する自分を想像し、1階から2階に移動する際でもエレベーターを使うだろう。各企業の社員さんの中にもいろんな事情で階段を使えない人もいるだろう、どんな気持ちでエレベーターを使っていらっしゃるだろうか。
一方で、両立支援事業も盛んにおこなわれている。仕事と治療を両立して離職を防ぐ、というのが目的。診断書に基づいて合理的配慮を実施し、働く人も企業も病気で仕事を諦める時代ではないとブラックジャック先生がつぶやく。
先ほどの話題に戻るが、「健康増進チャレンジ」で歩け歩けチャレンジ、さて、全員参加できるだろうか?取り残される人がいるのではないか?
メンタルヘルス対策では、健康な人、ややストレスを感じている人、すでにメンタルダウンしている人すべてを対象として行う、と定義されている。ならば、健康経営もそうでなくてはならないだろう。
全員参加、を目指して、工夫をしていく必要があるのかなと思う。
治療と仕事の両立支援 ブラックジャック篇
https://www.ryoritsushien.johas.go.jp/blackjack/
河合 早苗