産業保健コラム

櫻木 園子


所属:(一財)京都工場保健会 産業保健推進部 医療次長

専門分野:産業医学

労働安全衛生マネジメントシステムに思う

2020年3月2日

先日の産業医研修会で、労働安全衛生マネジメントシステムを取り上げました。また、私が所属している組織で「保健指導の品質管理」の内部監査があり、その中で改めて思わされたことです。それは、「システムをつくると、いつの間にかシステムに使われてしまいがちになる」ということです。
ISO9000シリーズの取得が流行(?)した頃にも現場の拒否感がひしひしと感じられました。「いつも何となくやっていたこと」を文書化(マニュアル化)すると、それまで臨機応変にやっていた変更に手続きが必要になります。きちんと手順を踏めば変更できるのですが、それをしないまま、「不適合状態」が生まれて叱られます。だからシステム化なんてしなければ良かったのに、という気持ちになってしまって、「マネジメントシステムは厄介だ」という空気になってしまいます。その後、環境マネジメントシステム、情報セキュリティマネジメントシステムなど、嘱託産業医としては全くの傍観者ではありましたが、様々な事業場で導入されています。そして、2018年に新たな規格としてISO45001が発行されました(これにより1999年に発行されたOHSAS18001は2021年3月末で失効します)。
ISO45001の規格文書の序文には、「組織は、働く人及び組織の活動によって影響を受ける可能性のあるその他の人々の労働安全衛生に対する責任を負っている。この責任には、身体の健康及びメンタルヘルスを推進し保護することが含まれる。労働安全衛生マネジメントシステム導入の目的は、組織が安全で健康的な職場を提供できるようにし、労働に関係する負傷及び疾病を防止し、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善することである。」とあります。システムを導入して運用が始まると、ついその目的よりも、「ルールを守る」ことが目的化してしまいがちです。「何のためのルールなのか」を常に意識していないと、時間の経過とともにルールが陳腐化してしまっても気づけなくなります。
日々の業務もつい惰性で行ってしまうことがあります。産業保健活動の目的を常に意識しながら行いたいと思わされました。

 

櫻木 園子