産業保健コラム
櫻木 園子
所属:(一財)京都工場保健会 産業保健推進部 医療次長
専門分野:産業医学
産業医としての立ち位置
2024年4月1日
産業医稼業(?)も20年を超え、巡航しているような気分になります。時々、エアーポケットにはまってわたわたすることはありますが、とりあえずはけが人もなく飛行できているのかなと。慢心に陥らないよう注意したいです。
産業医研修の後で、「会社からこんなことを言われて困っている」という相談を受けることがあります。本来は人事担当者が本人に伝えるべきことを、産業医から言ってもらいたい、というようなことです。「今の状態ではこの仕事は任せられない」「異動してもらいたい」など、本人が嫌な気持ちになりそうなことを、言いたくない。人としての感情は理解できますが、それは人事の仕事でしょ、と言いたくなります。というか、言っています。産業医はあくまで、「会社がさせようとしている仕事は本人の健康状態に照らして問題はないか、どのような配慮をすればその業務に従事できるか」について意見を述べる立場です。従業員からも、「あの仕事ならできると思う」と希望の業務に就かせるよう会社に意見を述べてほしい、と言われることもありますが、誰をどの業務に就かせるかは会社に裁量権があるので、産業医が決めることではありません。ある先輩が「産業医は中立、というより独立」とおっしゃっていて、なるほど、と思いました。会社の言い分も、本人の言い分も、どちらもわかります。それが完全には両立しないときに、落としどころを見つけていきます。それぞれが不満を抱えながらの決着になります。間に立って中立、というのではなく、医学的判断と職場の状況をある程度理解して、客観的に意見を述べます。結果としては、会社の事情に寄ることもあれば、本人の希望に近づくこともある。常に50:50というわけではありません。
公平・誠実に、気持ちは寄り添って、という理想に近づくべく、自動操縦の巡航でもしっかりモニターを監視しながら、精一杯取り組んでいきたいものです。
櫻木 園子