産業保健コラム
古海 勝彦
所属:日新電機(株) 総括産業医
専門分野:産業医学
衛生委員会の活性化
2021年4月1日
当初は対岸の火事と思われていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、1年以上も続くとは誰も予想していなかったのではないでしょうか? 第1波、第2波に続き第3波が到来し、緊急事態宣言の効果もあってか、ようやく2月末に京都は宣言解除となりましたが、変異株の出現が新たな問題として浮上しています。やっと開始されたワクチン接種によって終息に向かう事を願うばかりです。
さて、この1年以上に渡るコロナ禍の中で、我々産業保健従事者も様々な経験を通じて、多くの学びを得たのは確かです。各事業場では、当初は手探り状態の中、可能な限りの感染防止対策を講じてきましたが、今ではいくつかの基本的な感染防止策に集約されたように感じます。インフルエンザの流行期にはあまり重視されなかったマスクも国を挙げての感染防止対策によって9割前後の着用率となり(日本リサーチセンター インターネット調査)、「インフルエンザ感染者数は昨年比0.15%の低水準続く(感染症動向調査第8週)」と発表されました。マスクの品薄は布マスクに市民権を与え、スーパーコンピューター(富岳)は飛沫飛散防止効果を視覚的なインパクトを我々に与えてくれました。
では、これらの感染防止対策は、事業場の衛生管理体制の中心である「衛生委員会」の審議を経て実行されたのでしょうか?ある研修会で参加者の方に伺ってみましたが、12名中1名だけが「(感染防止対策について)衛生委員会で審議した」と答えてくれました(誰も手を挙げてくれないかと思っていましたが)。ご存じのように、衛生委員会の開催や付議事項については労働安全衛生法・規則に定められています。「労働者の健康を保持するための措置に関すること」は、産業医の職務のひとつでもあります。新型コロナウイルス感染対策は労働に直接関係するものではありませんが、「労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項」に含まれる項目であり、政府も事業者に対してテレワークの推奨や時差通勤、出社率の低減などの協力要請を行っています。しかしその重要性や緊急性から、多くの事業場では対策本部や対策会議が衛生委員会とは別に設置され、様々な対策や施策が決定され実行されているようです。これでは何のための衛生委員会なのか、その存在意義に疑問符が付いても仕方がありません。人事労務担当者を対象とした研修会では、「衛生委員会の活性化」がよく話題になります。「出席者が少なく開催できない」「嘱託産業医が参加してくれない」「何をすればよいか分からない」と、彼らの悩みは様々です。そんな担当者の方には、現在、事業場で実施されている感染防止策を審議事項に取り上げることをお勧めします。「出社時に行っている検温は効果があるのか?」「マスクの着用率が低いようだが、どうすれば改善できるのか?」などについて、衛生委員会で話してみてください。ワクチン接種が順調に行われ、一日も早くコロナ禍が終息を迎えることは望ましい事ですが、もし衛生委員会の活性化でお悩みなら、事業場の感染防止策について「調査」「審議」を行って活性化の契機にしてみてはいかがでしょうか。
古海 勝彦