産業保健コラム
古海 勝彦
所属:日新電機(株) 総括産業医
専門分野:産業医学
マスクの功罪
2023年4月3日
このコラムの執筆依頼を頂いた時は、いつからマスクを外すかが連日ニュースになっていました。「卒業式はマスク無しで」「いや自己責任で」「感染が増える」と様々な意見が飛び交っていましたが、5月8日から5類へ引き下げられることが決まり、マスク着用は「個人の判断」となりました。
マスクと言えば、皆さんは3年前のことを覚えていらっしゃるでしょうか?中国で始まった未知の感染症に対して、多くの企業は中国で働く社員にマスクを送りましたが、まもなく国内で感染者が見つかり、その数が増えてくると、国内でマスクや消毒液が不足し、値段が高騰しました。不織布が推奨される中で「アベノマスク」が登場し、様々な色や形のマスクが市中に溢れるようになりました。夏には熱中症のリスクが話題になり、産業保健分野でも議論が起きました。「マスクを付けることで花粉症が減る」と予想した耳鼻科医がいましたが、インフルエンザは見事に抑え込まれました。マスクに抵抗していた海外でも日常となり、世界中に広がっていきました。
8波まで続いたコロナ禍も、ワクチン接種や治療薬の開発によって終息が期待できるようになりましたが、今度は「ウィズコロナ」「アフターコロナ」が話題に上るようになり、在宅勤務で新しい働き方を知った人たちの一部では、出社がストレスになっています。マスクだけでなく、職場に溢れるパーティションや手指消毒液、止まったままのハンドドライヤーも判断を待っています。鼻マスクやあごマスクは相変わらず見かけますし、マスクを指でつまんで胸にしまう政治家を見る度に、「マスクの正しい外し方」は?と思ってしまいます。産業医としては科学的根拠に基づいた対応策を提示したいところですが、情報過多の中で何が正しい情報なのかを判断することは難しく、様子見と成らざるを得ないのかもしれません。
ドアノブを直接触らないためのグッズのように、数年後には笑い話になっていることを願うばかりです。
古海 勝彦